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検定合格から独立支援まで
若手ネイリスト育成に力を注ぐ

ネイリスト&ネイル講師:武内 陽子さん

起業のきっかけ

金沢へは出身地の新潟県から夫の転勤で引っ越してきました。知り合いが全くおらず、友だちをつくろうと、市内のネイルスクールに通うことに。新潟にいた頃から定期的にネイルサロンに通っていて、「どうせなら自分でやれたらいいな」と思っていました。当初はゆるゆるやっていましたが、ネイリスト検定を目指すようになると「絶対合格したい」という気持ちが芽生えて、必死でがんばるようになっていきました。

1年後には検定1級に合格。先生から薦められて出場したコンテストをきっかけに、ますますのめり込みました。同じ赤色でも全メーカーの色を購入し試してみないと気が済まず、夜中まで練習に没頭。当時はどうやって家事をやっていたのか覚えていないほどです。そんな努力の積み重ねが実を結び、コンテストに出場するたびに入賞し、北陸大会のグランドチャンピオンになることもできました。
ちょうどその頃、先生から系列スクールの講師をやってみないかと声をかけていただき、専門学校の非常勤講師としても働き始めました。4校をかけ持ちして忙しかったですが、自分が教えた生徒さんや学生たちの成長を見ることは手ごたえがありました。初めて「教える喜び」を味わえたのがこの頃です。その専門学校で知り合った先生に個人レッスンを頼まれ、他の先生に場所を提供していただけたことから、思いがけずフリーのネイリストとして独立することになりました。

独立してもPRは一切せず、生徒さんや学生のクチコミで集客には困りませんでした。当時はサロンワークをする技術者は多いものの、指導者はまだ少なかったのです。コンテスト受賞歴も看板になってくれたと思います。コンテストの開催地は東京や大阪が多く、材料費・モデル代・交通費などの経費は貯金を削って出場していましたが、あの経験があったからこそ今につながっています。先生の薦めがなければ、自分だけではあそこまでがんばる気持ちになれなかったと思います。独立のきっかけをつくってくれた専門学校の先生方や卒業生たち、まわりの方々の力も大きく後押ししてくださいました。

ネイリストの花形、イベントの「デモンストレーター」を複数経験。世界最大級のネイルイベント「ネイルエキスポ」に参加したときの様子。

 

やりがい

私が教える生徒さんのほとんどは検定合格を目指しています。真剣な気持ちに応えるために、検定前には厳しく接することもありますが、みなさんが必死についてきてくれます。そんな生徒さんたちが合格して喜んでいる姿を見ると、自分のことのように嬉しくなりました。何度も経験するうちに、ネイルを教えることが自然と好きになっていました。

検定合格に定評のあるレッスン。マンツーマンで丁寧な指導を心がけている。

教える一方で、サロンワークも続けていました。きれいなネイルに仕上げるとお客様にはもちろん喜んでいただけます。ですが、お客様のなかには、噛み癖による爪の荒れ、足の巻き爪、足の痛みなどトラブルに悩んでおられる方がたくさんおられました。そうしたトラブルを解消できたとき、お客様の表情がパッと晴れやかになる。そんな経験を繰り返しながら、「爪をきれいに彩るだけでなく、爪そのものを健康にするお手伝いができたら」と思うようになりました。

爪のケアの勉強を本格的に始めてからは、噛み癖で爪が極端に短い方のケアをしたり、巻き爪の方には爪の正しいカット法、足の痛みに悩む方には正しい靴の選び方をアドバイスしたりと、サロンでもさまざまなケアを取り入れるようになりました。専門の先生を講師にお招きして教え子たちも学べるセミナーも開催しましたし、これからも開催していきたいです。ネイルケアの学びはとても幅広いですが、こうしたサポートこそがお客様への真のホスピタリティにつながっていくのだと思います。

コンセプト・強み

ネイリストの多くは検定合格がスタートです。それをクリアするために最大限のサポートをしています。レッスンは検定に必要な基礎知識がしっかりと身に付くよう、マンツーマンや人数制レッスンです。検定の試験官も務めた経験を活かし、会場の雰囲気や検定のポイントをアドバイスするなど、万全な検定対策を行っています。おかげさまで高い合格率を維持し、卒業生のほとんどがネイリストとして活躍しています。

他のスクールと連携して開催した検定の合同模擬試験の様子。

ネイル業界では新人の研修制度や下積みシステムが確立していないところも多く、就職するとすぐに接客をまかされる場合もあります。経験が浅いうちはトラブルになりやすく、対処法もわからずに悩む若手ネイリストも多いです。そんな現状をふまえて、就職前に少しでも経験を積めるよう、「アミーズネイル香林坊東急スクエア店」を生徒さんのサロンワーク見学や検定資格取得後の研修や経験の場として活用しています。資格だけでなく接客経験もあれば、就職にも有利になります。検定取得にとどまらず、就職や独立までのフォローアップを丁寧に行うことができればと思っています。

運営するネイルサロン「アミーズネイル香林坊東急スクエア店」。

サロン内で接客経験を増やすことで、資格取得者の就職や独立を支援。

スクール生や卒業生同士の交流があまり活発でないところもたくさんありますが、当スクールの生徒さんたちは卒業後もすごく仲が良いです。情報交換も盛んで、新しい材料や技術などを勉強し合っています。私も、在学中はもちろん卒業後も、集客をはじめ、産休で休業する際のお客様のご対応、お客様のトラブル対処に困ったときなど、働いてみなければわからない様々な相談にのっています。そんなネットワークができあがっていますので、独立してサロンをオープンしても、とても心強いと思います。

今後の展開

20年以上の経験のある私でも、接客の際には緊張します。お客様それぞれに爪の形も要望も違うので、相対してみないとわからないことがあります。ネイリストは技術職であり接客業でもあるので、新人の頃は緊張してしまい、思うようにできない場合が多いです。誰もが通る道で仕方がない部分もあるのですが、たくさんの相談を受けているうちに、なんとかサポートできる方法はないだろうかと考えるようになりました。そんなとき、美容師の先生に「美容師はシャンプー、カラー、カットなどと段階を経て1人前になっていくのに、ネイリストはそうしたシステムが確立されていないところが多いのね」と言われました。この言葉を聞いて、資格を取得した方が安心して働くための、独立に向けての「育成カリキュラム」を完成させたいと思いました。

新人ネイリストさんが困りがちなテーマはいくつかあります。オフの方法、カラーによっての塗り分け、それぞれのお客様の爪の形に応じたケアのポイント、接客など。そしてこれらにプラスして、コストに配慮した効率化なども加わってきます。ネイルには検定の技術・コンテストの技術・サロンワークの技術があります。そんな中の一つ、サロンワークの技術は現場で学んでいかなければなりません。それらをレッスンでサポートするのが「育成カリキュラム」です。今後はテーマ別に単位で取得できるカリキュラムを構築し、サロンへの採用や独立支援コースとして打ち出していこうと考えています。

私はたまたま生徒さんたちより早くネイルを始めただけで、ネイルを好きという気持ちは同じです。そんな同じ想いの方たちの力になっていければと思います。

ネイリストにはその時々の人気のカラーやアートを学ぶ楽しさもある。

コロナ禍の影響で、2021年にはオンライン講座も開始しました。遠距離では通学レッスンに通うのは難しいですし、もっとリーズナブルに受講したいという方に向けてのシステムです。ネイリスト技能検定3級対策講座の動画をメインに、アプリやSNSで講師に質問できる特典やネイル用品セットが付いた4コースをご用意。英語版もあり、海外の方も気軽に受講できるようにしました。日本のネイル技術は海外でも質が高いと評価されているので、今後はさらに認知度を高めていきたいです。

ネイル検定3級取得向けのオンライン通信講座。全工程字幕表示の特典映像付き。

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

寝るのも忘れてネイルに打ち込んだ経験があるので、好きなことなら苦労と思わずに続けられると、身をもって感じます。仕事の中で落ち込むことがあっても、立ち直らせてくれるのもまた仕事です。私の場合、個人スクールと専門学校の講師、サロンワークと、一つの仕事だけではなかったのがよかったです。仕事の幅も人脈も広がるので、同じ業種の中でいろいろチャレンジしてみてもよいと思います。

教え子が起業していくことはとても嬉しいです。みなさん真面目で努力家。絶えず勉強を続けていることはもちろんですが、何より、心づかいや気配りができ、お客様を大切にしている方ばかりです。そうした活躍も私の楽しみにもなっています。金沢という知らない土地で、たくさん知り合いができたのはネイルのおかげ。仕事を生きがいに毎日楽しく ― 金沢人生はネイルとともにあります。

 

profile/ プロフィール

ネイリスト&ネイル講師:武内 陽子さん

NPO法人日本ネイリスト協会常任本部認定講師。2002年よりネイリストとして活動。2005年ネイルコンペティション金沢で初代グランドチャンピオンに。多数の専門学校でネイルの講師を務め、2007年に独立。技能検定の試験官やコンテスト審査員、ネイルイベントでのデモンストレターなど幅広く活躍。大手美容院のネイル指導も行い、現在はネイルサロン「アミーズネイル香林坊東急スクエア店」を運営。JNA本部認定校にて講師を務め、ネイリストの後進育成に力を注ぐ。
https://ammys-nail.com/

2022年度取材

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