起業のきっかけ
2020年11月、コロナ禍の真っ只中に開業しました。決心したのは6月。ちょうど三男の産休中で、かねてから考えていた起業についてじっくり考えることができたんです。当時は内装設計会社に勤めていましたが、通勤に片道30分かかり、時短勤務を使っても7歳を筆頭に3人の子育てはかなり大変。実家が自営業だったこともあり、ごく自然に起業が頭にありました。「じゃあ何をやろうか」と、これまで経験のある内装設計、アパレルなどいろいろ考えましたが、中々しっくりくるものが見つかりませんでした。
そんな頃、母乳育児をしていた三男に吹き出物が出たことから、アレルギーを気にして卵や小麦、乳製品が入った食品を一時的にやめようとしたんです。食品の表示を見始めるとほとんどに含まれていて、「これは実践するのは難しいな」と思いました。一方で気になったのが添加物の多さ。どの食品にもめちゃくちゃ入っているんです。食品について意識が高い子育て中の友人に聞いて本やネットで調べてみると、様々な危険性がわかって「添加物はやばい」と思いました。それからは意識して避けるようにしたものの、無添加の食品を扱う店は近くになくて…。乳児を抱えて片道30分の専門店に通ううちにふと、「お店がないなら自分でやればいいんじゃない?」とひらめいたんです。
実行に移す前に、それが継続可能な事業かどうかを分析してみました。食への興味は尽きないので自分が飽きることはない。コロナ禍で免疫強化など健康意識が高まり、時代のニーズにも合っている。実家店舗の2階を活用できるので、初期投資や運転資金が抑えられる。こうした要素がぴったりとハマって、あらためて起業を決意しました。それからの行動は早かったですね。
扉や棚などの簡単な設備投資と開業後6カ月間の運転資金を200万と見積り、金融公庫で借り入れしました。借りるにあたって事業計画書も初めて作成。売上目標は1か月にほしい生活費を基準に日割り計算するなどして、なんとか提出できました。取り扱う商品は添加物が入っていない「無添加」をベースとしましたが、こうした商品は仕入れ値が高く利益が薄いのがネック。そこで原価率が低い自家製の焼き菓子を置こうと考えました。ヴィーガンやグルテンフリーのスイーツはまだ市場にあまり出回っていないので、ニーズがあると見込んだんです。製造販売するために飲食店営業・菓子製造業の許可や食品衛生責任者の資格も取得。2020年8月に会社を退職し、10月に開業届を提出して11月のオープンまで、今思うと自分でも驚くほどのスピーディな展開でした。
コンセプト・強み
一口に無添加商品といっても、食品だけでもオーガニックやグルテンフリー、国産素材を使用したものや廃棄素材を再利用したものなど、さまざまな種類があります。当店で扱う商品はすべて自分で使った上で良さを納得し、自信を持っておすすめできるものを厳選しています。例えば、同じ醤油というカテゴリーでも味わいや原料、商品づくりのストーリーがそれぞれ異なります。そうした商品ならではの良さを詳しくお伝えできるという自負を持っています。自分の経験から「一般的に自然食品店は接客が足りない」と感じていたので、わざわざ専門店に来てくださるお客様に商品価値を理解していただき、ニーズに合った商品を選んでほしかったからです。
接客については、家業がブティックで子どもの頃から親の接客を見ながら育ったこと、アパレルの大手企業で数年間働いた経験も大いに生かせていると思います。起業して強く感じるのは「自分がいいと思ったものをお客様に選んでいただいている」という喜び。まだ知られていない良いものを伝えたい、という気持ちもますます強くなっています。
大変だったこと
店舗は商店街の入口とはいえ、2階なので商売上は不利な立地でした。開店したもののコロナ禍で人通りはなく、ふらりと立ち寄ってくれる人はほとんどいません。6か月たっても売り上げ目標は達成できないままでしたが、「今がどん底なので後は上がるしかない」と不思議と焦りはなかったですね。やはり実家だったので家賃不要というメリットが大きかったと思います。
集客には無料ツールを最大限に活用。フリーペーパーやフリー情報サイトに掲載してもらうほか、毎日2回のInstagram投稿をルーティンにしていました。朝にオープンのお知らせ、もう1回は商品紹介です。そうしてコツコツ発信していくうちに、見つけてくださる方が徐々に増えてきました。客層は予想通り、家族や子どもの健康を気遣う子育てママが多かったですが、コロナ禍で食を見直した方もかなりおられました。丁寧に説明すると商品の良さをわかってくださって、リピーターも着実に増えていきましたね。
やりがい
やりがいは日々感じています。会社員時代は「仕事をやらされている」「家事育児に追われている」といったネガティブな感情で毎日がいっぱいいっぱい。自分でも向いてないなと思っていました。起業してみると、昼は接客、夕方に子どもたちが帰宅すると寝かしつけるまで家事育児、それから夜中まで焼き菓子作りと、作業は結構大変なのに全然苦にならない。やりたくない仕事がなく「全部がやりがい」になったんです。
起業してから、自営業の友人もすごく増えました。起業仲間にいろいろと相談するうちに、イベントに誘われたり、「あなたに合いそうだから」と人を紹介されたりと、どんどん人から人へとつながって。休日はスタバじゃなくて友人のカフェへ、洋服を買うときも友人のブティックへと暮らしも変わりました。勤めていたときは職場とスーパーと家が行動範囲のほとんどだったので、日々の充実感が全然違いますね。
今後の展開
お店を続けていくには物販がメインだと利益率が低いので、ゆくゆくは飲食もやりたいと考えていました。ちょうど母が営んでいた1階ブティックを閉店することになり、2階から移転して販売とカフェを兼ねた店舗を開くことに。築90年と年月が経っていたため大がかりな基礎工事が必要で、厨房の新設、壁の塗り替え費用も含め実家に援助してもらいました。スタッフとして飲食業界の経験が長い姉や母も手伝ってくれることになり、2023年5月にリニューアルオープンしました。
1階になったことを生かして、気軽に来店できるようにおしゃれで開放的な店構えにしました。ふらりと立ち寄ったお客様が無添加商品に興味を持っていただくきっかけにしてほしい、と考えたんです。「買い物は投票」という言葉がありますが、無添加の商品を選ぶ人が増えれば、作るメーカーも増えて価格も安定します。当店を通じて無添加商品を買いやすくなることで、社会が良い方向に向かう一助になればとも思っています。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
midoriya(ミドリヤ):髙橋 朋子さん
金沢市出身。3男の育休中に食の大切さに目覚め、2020年11月、実家ブティックの2階で無添加の自然食品店「midoriya(ミドリヤ)」を開業。2023年5月に1階に移転し、商品販売ブースにカフェを併設してリニューアルオープン。カフェでは自家製のヴィーガン・グルテンフリーの焼き菓子やドリンクを提供している。内装設計会社で在勤時に2級建築士の資格を取得し、アパレル会社での接客経験も豊富。
※2023年度取材
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