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手作り家庭料理のお弁当で、忙しい人たちの“食の拠り所”に

delica mol(デリカモル)堂:山本美穂子さん

起業のきっかけ

物心ついた頃からとにかく食べることが大好きでした。金沢市内の短大の栄養科を卒業して一般企業に就職したものの、やはり「食を生業にしたい」と大阪の調理師専門学校で学び直し、調理師免許を取得。帰郷して金沢の料理学校で講師として働き始めました。食の店でなく学校を選んだのは、叔母が愛知県で料理学校の校長をしていた影響が大きかったですね。当時は厨房に入るより、「料理を教えること」に面白みを感じていたんです。

8年ほど働いた後、結婚・出産を機に退社。子育てしながら働ける形を考えて、自宅で料理教室を主宰することにしました。週23回のペースで、1回2~3人の生徒さんを集め、受講料は12700円ぐらいだったかしら。フリーペーパーや新聞広告、料理教室の検索サイトに登録したりして集客し、コンスタントに生徒さんたちが来てくれました。継続してくれる人もいて、楽しくやっていましたが、あまり利益はなかったですね。10年ほど経って、子どもの学費にお金がかかるようになると、定期的にまとまった収入が必要になってきました。そんなとき、白山市の福祉施設内に料理教室があると知り、パートとして働くことに。ここでは料理教室の講師のほか、施設内の保育園の給食づくりなど多方面から調理に関わっていました。

子どもが大学に入って子育てから手が離れると今度は、「自分が本当にやりたいことをやりたい」という気持ちが湧き出てきました。教えるほうから料理の道に入ったものの、やっているうちに「自分で作って提供するほうが性に合っている」と思うようになっていたんです。最初は一品料理や定食屋を考えましたが、親しい友人に相談すると、「お弁当屋さんはどう?」という提案が。その頃はコロナ禍でテイクアウトが大流行していたけれど、手作りに見えてもレトルト食品を使ったものが大半でした。そんな現状をみるにつけ、「忙しい日々の中、同じような弁当やレトルト食品に味気なさを感じている人がいるだろうな。そんな人たちのために、旬の食材を使った手作りの家庭料理でお弁当屋さんをやろう」と心が決まりました。試しに、勤めていた施設の職員さんに手作り弁当を販売してみたら好評で、「いけるかな」という感触もありましたね。

開業にあたり、お金のリスクをできるだけ抑え、家賃なしの省スペースで、となると、実家のキッチンを改装するのが最善の策でした。先に相談した友人は建築会社に勤務していて、センスも抜群。話し合ううちに、どんどんアイディアが出てきて、着々と準備は進んでいきましたね。店舗の増築や冷蔵庫などの設備投資でかかった経費は、すべて貯金でまかないました。銀行に融資の相談にも行きましたが、「それぐらいの事業規模なら借りない方がいい」と言われて。今になってみると、借金の負担を背負わずに済んでよかったなと思います。

2022年5月、金沢の住宅地にオープン。実家のキッチンに弁当の受け渡しスペースを増築した。

コンセプト・強み

コンセプトは「毎日食べても食べ飽きない家庭料理」。レトルトや冷凍食品は使わず、すべて手作りの日替わりメニューを提供しています。30年近く家庭料理を教えてきて、このところ、手作りの家庭の味がなかなか食べられない時代になってきた気がするんです。共働きも多くなったし、1人暮らしも増えているし。うちのお弁当は、やさしくてどこか懐かしい“お母さんの味”とでもいうようなお惣菜をふんだんに盛り込んでいます。毎日来てもらっても大丈夫なように、メインは2種類の日替わり弁当にしました。2週間分の日替わりメニューをホームページで、その日のメニューはインスタグラムで公開しています。

おかず3品+ご飯の「日替わり弁当A」。ご飯は白米か雑穀米から選べる。

おかず4品(ご飯なし)の「日替わり弁当B」

私が思う“健康的な食事”とは、まんべんなく多品目の食材を食べること。体によいからと決まった食材ばかりを食べていると、結局は栄養不足になってしまうじゃないですか。うちのお弁当には、一度にいろんな食材を摂れるよう種類豊富な食材を使っています。特に旬の野菜を多めに使って、おいしさと同時に季節感も味わえるよう心がけています。

店名の「mol」はモル=盛る、を表しています。ご飯を盛る、おかずを盛る、愛情を盛る、モルモル食べる、そんな思いを込めて名付けました。思いが強すぎてたくさん盛ってしまいがちで、小食なお客さんからは「多すぎる」と言われることもあります(笑)。

大変だったこと

開店前も開店後も資金面では苦労しています。自己資金を全て初期投資に使ってしまい、運転資金のことまで考えていなかったので、日々のやりくりが厳しいですね。特に、開店直後から続く物価高騰が響いて…。レトルトや冷凍食品を使わないので、とにかく原材料費がかかります。やむおえず20233月に値上げしましたが、それでも原価率は高めです。日替わりメニューということもあり、食材のまとめ買いができず、近所のスーパーで購入しているんです。でも質は絶対に下げたくないので、なんとか乗り切っていかねばと気を引き締めて頑張っています。

集客は、料理教室の生徒さんにお知らせしたり、近所にチラシをまいたりしたほか、フリーペーパーに広告を1回出したぐらいですね。ホームページは息子に作ってもらいました。オープンしてすぐにどっとお客さんが来るという感じではなく、知り合いを通じて口コミでじわじわと広がっていき、通りすがりのお客さんが立ち寄ってくれたりして、最近は近所のお客さんが定着してきた感じです。

大きな帆布看板が目を引く店頭。交通量が多い道に面し、通りすがりに見つけるお客も多い。

やりがい

食材に対するこだわりは、わかってくれるお客さんはわかってくださっています。そして「おいしい、おいしい」と喜んで、「がんばってるね」と労わってくださる。それが1番の励みですね。最近は常連さんが増えてきて、ほとんど毎日いらっしゃる方も。女性は晩ごはんのおかずの足しに、男性は4060代のひとり暮らしの方が会社帰りに来られたりします。コンビニ弁当やレトルトに飽き飽きしていた方々の“食の拠り所”になっているとしたら、何より嬉しいですね。

お客の声を受けて、日替わりメニューをほどよく盛り付けたミニ弁当も用意。

家庭料理といっても、和洋中から韓国やタイなどの世界の料理を盛り込んだバラエティ豊かなお惣菜を提供しています。お客さんからは「こんな料理、食べたことない」という声もよく聞きますね。定番料理ばかりだと「毎日食べても食べ飽きない」にはならないので、これからも新鮮に感じていただける料理を工夫していきたいと思います。

手間暇かけたハレのメニューを盛り込んだオードブルも好評(要予約)。

今後の展開

最終的な目標は、やはり料理屋なんです。来ていただいたお客さんに、自分の作りたいものを出すような自由なお店が理想ですね。実験的にやってみようと、2022年秋頃から週末に居酒屋スタイルの通称「夜mol」を始めました。店内の小さな一角を提供し、酒の肴コースまたは晩ごはんコースが楽しめます。夜になると屋台風でなかなか雰囲気がいいんですよ。貸切りでリーズナブルに楽しめるので、知る人ぞ知るのスペースになっています。最近はいろんなスタイルの店があるので、将来的には庭の一角にコンテナを置いて食事スペースにするのもいいかなと、夢は広がっています。

毎週金・土の夕方に予約制で利用できる「夜mol」。豊富なメニューとドリンクが楽しめる穴場だ。

独立してお店を持ちたいという思いを長年抱いてはいましたが、なかなか踏み切れず、子どもが巣立った時点でようやく一歩進むことができました。今は、お弁当、週末居酒屋、そして不定期の料理教室も、とやりたいことはなんでもやっています。そんなふうに、いろんな形で料理を通じて、お客さんに喜んでもらえているのが楽しい。どんなに形は変わっても、私は一生料理を作り続けていくんだろうなと思います。

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

「お店を持ちたい」とコツコツと資金を貯めて育んできた夢。それが実現に至ったのは、友人の協力も大きいですね。漠然とした思いをその友人に話すことで、イメージが明確になったんです。料理屋さん一辺倒だった思いが、「テイクアウトなら資金も少額でいいし、まずはそこから始めてみよう」と柔軟になれた。店のレイアウトやパンフレット、看板づくりなども彼女におまかせできたし、今も日替わりメニューの看板を毎日書きにきてくれてとても助かっています。そんな夢を共有して、支えてくれる人があってこそ今がある、と感謝しています。

一方、資金面ではかなり苦労しました。この大雑把でどんぶり勘定な性格が禍しているんでしょうね。開店前の私に「もっとお金の計画をちゃんとしたほうがいいよ」と言ってあげたいです(笑)。実は店舗を着工してから、ISICOに補助金の相談に行ったんですが、タイミング的に遅かったんです。とはいえ、その後の販促に関するアドバイスや、チャレンジショップに参加させてもらうなど、随分サポートしてもらいました。起業を考えているなら、こうした相談機関にぜひ「早めに」行ってみるといいと思います。

profile/ プロフィール

delica mol(デリカモル)堂:山本美穂子さん

金沢市出身。大阪の調理師専門学校で学んだ後、金沢の「青木クッキングスクール」で講師として勤務。結婚・出産を機に退職し、自宅で料理教室を約10年間開催し、好評を得る。社会福祉法人「佛子園」内のクッキングスクール講師や保育園の給食担当を務めた後、料理講師歴30年の経験を活かし、20225月にテイクアウト弁当店「delica mol(デリカモル)堂」をオープン。

公式ホームページ
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2023年取材

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