起業のきっかけ
リラクゼーションの仕事に就いたのは、ほんの軽い気持ちからでした。その頃、日中は自動車関係の会社で働いていて、夕方からアルバイトでもしようかなと探して見つけたのが前職のサロン。受付のつもりで面接に行くと施術担当とのことで、「この先、技術を身につけておくのもいいかも」とやってみることに。それまでずっと接客業中心に働いてきたので不安はありましたが、実際に働いてみると、これが性に合っていたんです。サロンでは直接お客様の体にふれるので、ダイレクトに双方の気持ちが伝わる。その上、私は人と話したり話を聞いたりすることも大好きだから、より深いコミュニケーションができるんです。リラクゼーションの仕事は“究極の接客業”だと思いました。
アロマ、フェイシャルエステ、もみほぐし、足つぼ、脱毛と幅広い技術を学べることも楽しく、次第にお客様にも高い評価をいただけるようになっていきました。2年目からはこの仕事1本に絞り、正社員に。その後半年で店長に抜擢されました。ところが店長として3年ぐらい勤務した頃、長年療養していた母が亡くなり、燃え尽き症候群のようになってしまったんです。施術ができなくなり、休養するためにサロンを退職せざるをえませんでした。しばらくしてようやく心が癒えると、今度は俄然働きたくなりました。でもハローワークで探すものの、なかなかピンとくるものは見つかりません。これまでを振り返ると、サロンで働いていた頃の輝いていた自分が蘇ってきて、「やっぱり施術の仕事が好き。それなら自分でやろう」と思うようになったんです。
まずは自宅サロンからと、ベッドやタオルウォーマーを購入し、友人知人に声をかけてスタート。半年ほどで紹介が紹介を呼んでお客様が広がり、いよいよ店舗開業に向けて踏み出すことにしました。ネットで「サロンの作り方」「開業のやり方」を検索すると、県内に無料の起業相談窓口があり、補助金制度もあることがわかりました。いくつか問い合わせた中で、最も迅速に対応してくれたのがISICOでした。中小企業診断士の方が親身に相談にのってくださり、小規模事業者持続化補助金を活用できそうとのこと。ISICOのアドバイスによって、やるべきことが「補助金の資料作成」「店舗探し」「資金の借り入れ」と明確になったので、あとは着々と進めるのみ。リラクゼーション業界の繁忙期が年末ということもあり、10月開業を目標に走り出しました。
補助金の審査結果が出るのが11月末~12月とのことだったので、まず自己資金でできるだけの改装を行い、2022年10月に「ハナココロ」をオープン。その後、補助金と融資を受けて、年明けに2回目の改装をしました。融資は日本政策金融公庫の女性起業家向け制度を活用。補助金が採択されない場合を想定して、2回目の改装には融資のみでのプランも準備していましたが、無事採択されてホッとしましたね。
大変だったこと
思いのほか難航したのは、店舗探し。家賃が比較的リーズナブルで集客しやすい立地となると、国道8号線より海側エリアで、周辺に大きな病院や中規模のクリニックが集まるエリアがいいなと考えていました。ところが、こうしたエリアにはテナント物件が少なく、あっても家賃が高い、駐車場がないなどで、不動産屋を10軒あたっても、これはと思う物件に出会えませんでした。聞けば、ちょうどコロナ禍が落ち着き始めた時期で個人サロンの出店が相次ぎ、良い物件は引っ張りだこという事情もあったよう。知り合いの不動産に手を尽くしてもらい、ようやく通り沿いのわかりやすい場所にある物件と契約することができました。
いざ起業してみると、経営の厳しさにも直面しましたね。補助金の資料づくりで売上予測や利益率などのシュミレーションはしていたものの、実際は予想よりも出費が多く、利益は目減りしてしまう。雇われていた時は客単価や売り上げは頭に入っていましたが、利益計算までは思い至っていませんでした。自宅サロンはほとんど経費がかからなかったので、細かく経費をチェックする視点がなかったんです。でも、そうした問題も無駄なコスト削減を意識し、売り上げが伸びるにしたがって徐々に解消してきました。
コンセプト・強み
やはり私自身が1番の強みと言いたいです。リラクゼーションの役割は心と体の解放。それができる場かどうかが、選ばれるポイントだと思っています。約20年間の接客経験と年間1000人を超える店長時代の施術経験をもとに、お客様の状態を配慮しながら、施術と会話のバランスの良いサービスを提供できるよう心がけています。「ここに来たらなんでも言えるわー」と気楽に雑談でき、施術を終える頃には心身がすっきりリフレッシュ。そんなサロンであり続けたいですね。
また、一般的に女性の個人サロンは女性客のみ対応の店が多いですが、当店は男女両方のお客様が利用できます。前店で磨いた強圧マッサージの技術を活かし、男性客のもみほぐしもご好評いただいています。近年はメンズ美容も盛んなので、男性のフェイシャルエステのご利用も多くなっています。
集客にはお金をかけず、Instagramでの発信に力を入れています。こまめな更新で新規のお客様が毎月10人以上獲得できていますね。Instagramのプロモーションのやり方はネット検索で調べ、動画アプリや画像アプリを駆使。ホームページもAmeba Ownd (アメーバ オウンド)のテンプレートを使って、自分で作成しました。今は様々なツールがネットで探せて、自分で集客できる時代です。私はSNS集客が全然苦にならないし、その分経費が浮くと思うとめちゃめちゃがんばれます(笑)。
やりがい
起業して3年目となり、顧客も増え、収益も安定してきました。自分一人で集客から施術までやっているので、お客様に喜んでいただくことで、すべてやりがいとして還ってきます。定期的に来店される方、新規で来られてすぐに予約を入れてくれる方、そうやって当店を選んでくださることが私への評価だと思っています。さらにお友達やご家族を紹介してくださる方に至っては、本当に信頼していただいているんだなと感謝の気持ちでいっぱいになります。
毎月1回ご予約いただくお客様から「この日があるからがんばれる」「しんどいのを耐えてきた」というお言葉を聞くと、思わず涙が出そうになります。数か月ぶりにでも「ずっと会いたかったー」「やっと来られた」とご来店くださると、当店のことを忘れずに思ってくれている人がいる、誰かの心の支えになってるんだと励まされますね。
個人サロンのオーナーのなかには、次回予約がとれないと悩んでいる人も多いんです。でも、それに囚われて一喜一憂しなくてもいいのでは。私にとっては「忘れずにお店を思い続けてくれる人」を増やすことが使命。お客様の思いの深さは来店頻度に比例しないと考えると、焦りや不安もやわらぎます。
今後の展開
今年から、お客様の要望が多かった脱毛をメニューに加えました。脱毛は大手サロンに行かれる方が多いですが、当店のような複合サービスサロンにも意外に需要はあるんです。エステやマッサージを入り口に、「脱毛してみたいんだよね」「中断してるけど再開したい」「興味があるけど怖くて」といった、ちょっとした会話からニーズを拾えるんです。そうはいうものの、脱毛機器は高額。手始めに小型機器を購入し、ポイント脱毛からスタートしました。売り上げが見込めそうと手ごたえを感じた時点で本格的な機器を導入し、全身脱毛が行えるように。このときにもISICOに相談して、補助金を活用することができました。
施術に関しては、お客様の満足度の高いものを提供していきたいので、筋肉の構造の勉強や機能性の高い美容アイテムの研究など、絶えず学び続け、努力していかなければと思っています。そして細く長くお客様をサポートしていくのが目標ですね。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
ハナココロ:滝川 都子さん
羽咋市生まれ。飲食やアパレルなど幅広い接客業務を経験した後、2016年からリラクゼーションサロンで勤務。フェイシャルエステ、アロマトリートメント、もみほぐしなど幅広い技術を習得する。2019年に店長職に就任し、年間1000人を超える施術経験と心に寄り添う接客で高いリピート率をキープ。退職後、自宅サロンを経て、2022年10月にリラクゼーションサロン「ハナココロ」をオープン。2024年から本格的な脱毛機器を導入し、全身脱毛の施術も行っている。
※2024年度取材
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