起業のきっかけ
大阪で生まれ育ち、地元の大学を卒業後、東京で就職しました。母が片づけや掃除好きな人だったので、その影響もあってか整理整頓は得意でした。一人暮らしで引越しを何度か経験し、国内外の出張も多いなか、「限られたスペースに物をどう使いやすく収納するか」を考えるのがどんどん楽しくなっていきました。押し入れの棚に思い通りに物が収まったとき、沢山の荷物をスーツケースにパッキングできたときの爽快感は格別。それができるようになると、引っ越しも出張も全然苦にならなくなりました。当時は最小限の物や手間で快適に暮らすミニマリストが憧れでした。
2008年に結婚して金沢に移住し、翌年に長男、続けて次男を出産。理想とはほど遠く、子育てに追われる毎日を過ごしていました。やがて次男が小学校に入学し、ようやく心と時間に少し余裕ができると、「好きなこと、得意なことを仕事にしたい」という気持ちが芽生えてきました。自分に何ができるだろうと書店などで探して、見つけ出したのが「整理収納アドバイザー」という答え。たとえ仕事に結びつかなくても、暮らしに活かせると考えたんです。思い立ったらすぐ行動する性分なので、大阪や東京のセミナーに赴き、2017年の秋に資格を取得。ほどなくFacebook、Instagram、ブログを開始してフォロワーを増やしていきました。翌年3月からはフォロワーの方々の要望で、自宅でセミナーを開催するようになっていました。
ところが、私自身の片づけスキルが上っても、子どもたちが片づけてくれないことに頭を悩ませるように。小学校低学年の年子男子といったら、まさに“散らかし盛り”です。片づけた一方から散らかし、当人たちには「片づけ」という発想なんてみじんもない。いつも私ばかりが片づけていて、イライラがつのるばかり…。きっと子育てママの多くが同じ悩みを抱えているだろうと思い、親と子の片づけを根本から学ぼうとネット検索すると、「親・子の片づけ教育研究所」のホームページがヒットしました。「親が変われば、子どもが変わる」というフレーズにピンときたんです。早速、講座を受講し、親・子の片づけマスターインストラクターの資格を取得しました。当時、親・子の片づけマスターインストラクターは北陸でただ一人。もっと多くのママにこのメソッドを役に立てていただきたくて、2018年9月には開業届を出し、片づけサポートや講演・セミナー活動に本格的に取り組み始めました。
コンセプト・強み
近年、整理収納アドバイザーが増えつつあるなかで、「親子の片づけ」に特化しているところでしょうか。私自身、年子の男子を育てながら、男子特有の“散らかし放題”に悩やまされました。「片づけなさい!」と何度言っても、子どもたちは片づけてくれない、そんなママたちの気持ちは痛いほどわかります。でも、親子の片づけを学び実践するうちに、肝心なのは親子のコミュニケーションであることがわかってきました。子どもに合わせた片づけ環境を整え、正しい手順を根気強く教えるなかで、親も子どもも成長していきます。片づけがスムーズになると、お互いの心も整ってきます。そうした好循環を生み出すしくみをお伝えしていきたいと思っています。
独身時代は団体職員として13年間セミナー講師をして、何千人ものカウンセリング経験を通して、心理学やコミュニケーションスキルを身につけました。悩み相談はもちろん、大勢の人の前で話すことが全く苦にならないのもそのおかげだと思います。現在は、お宅を訪問して一緒に整理収納作業をする訪問お片づけサポートや、親子の片づけ講座、小学校やPTAでのセミナー・講演などをメインに、ママ向けの雑誌やWEBでコラムも連載しています。さまざまな活動を通じて、やはり親子の片づけ問題に悩んでいるママたちは多いなと実感しますね。
そうした方々に届くように、ホームページもコンセプトが明確に伝わるよう工夫しています。タイトルに「ママがイライラしないこころとくらし」とフレーズを入れ、子育てママを対象としていることが一目でわかるデザインになっています。ホームページ作成の際には、ISICOに相談して補助金を活用。アドバイスを受けながら、最小限の経費で思い通りの仕上がりになりました。何より、このホームページになってから、依頼者とのミスマッチがほとんどなくなりましたね。
大変だったこと
訪問片づけサポートについては、当初は理論にがんじがらめになって、うまくいかないこともありました。片づけた後に「イメージと違う」といわれることも。一般的な方法として、最初に物を全部出して、いる物といらない物を区別する、という方法があるんですが、全部出してしまうと混乱してしまう場合があります。また区別しても、捨てることが本当に苦手な人もおられます。さまざまなケースを経て、片づけにはその人に合ったペースや方法があるということがわかってきました。
また、完璧に整えればOKというわけではないのが、片づけの深いところです。だからこそ重要なのが、事前のヒアリング。時間をかけて現状と要望を丁寧にお聞きし、その上で相手の段階に応じてアドバイスする、というスタイルに自然となっていきました。お客様が「田中さんは私に合わせたレベルで応えてくれる」と言ってくださったときはすごく嬉しかったですね。家族構成、習慣、健康状態など、それぞれ異なるのが当たり前。そうした事情を踏まえて、暮らしや心の状態がよりよい方向に変わる、オーダーメイドの片づけを提案していきたいですね。子育てママの少し先輩の立場で、ママたちと一緒に考えながら成長していけたらと思っています。
やりがい
お客様は働いているママがほとんどです。忙しすぎて片づける時間がない人が多く、なかにはストレスや心のすき間を埋めるために物を買い過ぎている人も見受けられます。最近では、半年毎、1年毎と定期的に訪問するお客様も増えてきました。そうやって続けていると、お客様の片づけ力、捨てる力がついてくるのがわかるんです。当初は片づかない部屋で途方にくれていた方が、回を重ねるごとに穏やかになっていく様子を見ていると、この仕事を選んでよかったとしみじみ思います。
あるとき、お客様から「田中さんは暮らしの設計士みたい」という言葉をいただいて、はっとしました。私の目指す方向はまさにそこだと。片づけて終わりではなく、望む暮らしを手に入れた「家族の笑顔」がゴールなんです。「カフェのような空間でくつろぎたい」「子どもと楽しく料理をつくりたい」など、お客様は片づけた後のさまざまな夢を描いておられます。その理想の暮らしを叶えるサポートをしていきたいですね。
2023年には某機関誌で連載していたコラムがきっかけになり、『子どもが片づけ上手になる魔法の言葉』を出版しました。自分の片づけ失敗談を豊富に盛り込んで、「自分だけじゃない」と共感し安心してもらえる内容になっています。「整理収納の本でありながら、心のあり方、子どもへの寄り添い方など、子育て全般に通じる内容だと思いました」という読者レビューを見て、私の思いすべてが伝わった気がしました。これからも何らかの形で、一人でも多く困っているママたちの心に寄り添う活動をやっていけたらと思います。
今後の展開
訪問片づけサービスを始めた当初は、リビング、子ども部屋といった限られたスペースのみの単発のご依頼が多かったのですが、最近は家全体の片づけを継続して依頼されることが増えてきました。確かに1か所片づけても、そこからあふれた物の行き場や片づけ方に悩むことになりがちです。家全体が暮らしの場なので、まるごと一軒を俯瞰して見ることでよりよいアドバイスができるようになってきました。また、子どもの成長によって使う物も片づけ方も変化するので、小・中の入学のタイミングで収納レイアウトを考えてほしいというご相談も多いですね。そんなふうに継続してお付き合いしながら、ライフコンサルタントのような立場で伴走していけたらと考えています。
お客様の収納プランを提案する際によくあるのが、市販品でなかなかぴったりした棚が見つからないこと。そんなときにオーダーメイドの棚を制作すれば、より喜んでいただけるのではと考え、DIYを勉強中です。さらに、家全体のサポートを始めてからは風水に関する質問を多くいただくようになったので、風水の勉強もしています。どちらもしっかり学んで、今後メニューに取り入れていきたいですね。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
こころとくらし 整理収納×時短家事:田中 由美子さん
大阪市生まれ。大学卒業後、東京・横浜で団体職員として勤務。結婚を機に退職し、金沢へ移住。長男、次男を出産後、得意な片づけを活かして人の役に立ちたいと考え、整理収納アドバイザー1級を取得。さらに、家庭内での片づけに必要な関わり方にも目を向け、親・子の片づけマスターインストラクターの資格を取得。現在は、対面やオンラインでの整理収納サービス、企業・学校でセミナーや講演、Webライターなど多方面で活躍。著書に『子どもが片づけ上手になる魔法の言葉』(電波社)がある。
※2024年度取材
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