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本当にやりたい“1本”を見つけ、人に伝えることで道が開ける
create aroma space Rauha:伊藤 彩子さん
起業のきっかけ
アロマとの関わりは、2002年にイオン高岡の香水専門店で働き初めたことから。ここで初めて香水の世界を知り、お客様に合せて香りを選ぶ楽しさを知りました。店長として売上ノルマに追われる日々でしたが、目標を達成する喜びもダイレクトに感じられ、充実していましたね。そんな中ふと、「この仕事は結婚しても続けられるのかな」とぼんやりと考えることもありました。勤務時間は10~22時と長く、年末年始も近くのホテルに泊まり込んで出勤…やっぱり無理だなと。でも事務職は肌に合わないし、レジなどのパート仕事も務まりそうにない。「私にいったい何ができるんだろう」と考えていたとき、書店で目に留まった本に「香りは介護・医療・美容・教育など、さまざまな分野に今後必要とされる」と書いてあったんです。それを読んで「やはり香りの仕事をしていこう!」と、アロマインストラクターの資格を目指して教室に通い始めました。
資格を取得した頃、教室の講師の勧めで、市内のリゾートホテルに新設されるサロンでアロマセラピストととして働くことになりました。香水専門店を退職し、個人事業主としての最初の仕事でしたね。午前中はアロマレッスンの講師、午後はサロンでの施術と、めまぐるしく働く忙しい日々がスタート。でも、お客様のその日の気持ち・体調・好みに合せて香りを調合することが楽しく、喜んでいただける様子を目の当たりにして、ますますアロマにのめり込んでいきました。気がつけば3年間で施術したお客様は1000人になっていました。このサロンでのお仕事は本当に楽しかったのですが、30歳を契機に結婚。富山から金沢に移住するため、アロマのお仕事は一旦休止することになりました。
大変だったこと
結婚後はすぐに出産し、子育てや嫁ぎ先の家業を手伝いながら、アロマのセミナーや通信講座で勉強していました。休止中、仲間たちの活躍を耳にするたびに「仕事を再開したい」という気持ちが高まってきて、とうとう4年後の2013年にアロマサロンを開設。銀行から200万の融資を受け、メゾネットを借りてインテリアや家具にこだわったサロンを作り上げました。ところが、集客のためにDMやCMを打ったものの、なかなか客足が伸びない。手持ち資金はどんどん減っていき、「どうしてだろう」と思い悩んでいたときに知ったのが、女性を対象にしたある起業塾でした。思い切って参加し、女性起業家の方々と真剣に思いや悩みを語り合ううちに、心に刺さったのが「1本立つものがないと、個人起業家は埋もれてしまう」という言葉だったんです。
それからは「自分の1本とは何か」を考えに考え抜きました。一人では煮詰まってしまうので周囲の人に聞くと、かつての同僚が「あなたは香り作りが好きなのに、施術を選んだのが不思議だった。当然その方面に行くと思っていたのに」と。「そうだ、自分がやりたいのは香りの追求だった」とそこでようやく気づいたんです。「アロマ=エステサロン」と安易に選択したことを猛省しました。「1回やめて考え直す時間を持てばいい。誰も失敗とは思わないよ」という父の言葉にも励まされましたね。おかげで「始めたばかりなのにすぐに閉めるなんて、かっこ悪い」という気持ちをすっきり切り替えられました。
まもなくサロンを閉じ、自分本来の1本、「香り」へと再出発しました。主な活動は、ワークショップとオリジナルアロマデザインです。ワークショップは個人宅・イベントでのアロマ講座や体験、オリジナルアロマデザインは、企業様やお店・サロンなどの香りをデザインしたり、ノベルティに付ける香り作りなどです。今は香りの分野で、のびのびとお仕事ができる環境にあり、ここまで導いてくれた周囲の人たちには本当に感謝しています。
今後の展開
3年前に所属するアロマ協会のイベントが辰口であり、その際飲んだおいしいゆずソーダをきっかけに、「国造ゆず」が辰口の特産品であることを知りました。そこでひらめいたのが、国造ゆずを使った地域発アロマオイルの開発。実は今、国産アロマがブームになっていて、「このゆずを使ってぜひやってみたい!」と直感的に思ったんです。それからすぐに小型の蒸留機を購入して、ゆずの皮でオイルを試作。予想どおりの良い香りに可能性を確信し、「国造ゆずアロマプロジェクト」を立ち上げました。
地元の生産者グループを紹介してもらい足繁く通ううちに、国造ゆずの残渣(ざんさ)を提供していだだけることに。残渣とは、生産組合の方々が果汁を絞った後の輪切りにされ圧搾された状態のものです。こうしてつながりができたことで、今まで畑に廃棄されていたものを買取り、資源の再利用で新たな価値を創るという、プロジェクトの事業目的がしっかり見えてきました。そして、高齢化が進む実情や生産の現場をインスタグラムやFBでアピールしながら、残渣から抽出したアロマオイルを販売するようになっていきました。オイルは皮5kgからわずか5mlしか取れない貴重なもの。アロマの専門家や海外では関心が高いので、さらに多方面に発信していきたいと思っています。
活動を見守り応援してくれる方も多く、その中の一人に県内の化粧品OEMの会社社長さんがおられたんです。まだアロマオイルしかできていない現状を見て、「より多くの人が使える商品を世に出すことで、社会的信用度が高まる」とオイルを使った商品化を勧められました。誕生したのが、アロマオイル・ゆずの種から取った油・辰口の養蜂家が生産したミツロウを使ったリップクリーム。コスメの商品開発は未経験でしたが、前出の会社のご協力でなんとか商品化に至ることができました。地域アロマが注目される中、シリーズ化も視野に入れており、地元の人が愛着を持ち、自慢してもらえる香りの商品作りをするのが目下の夢ですね。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
create aroma space Rauha:伊藤 彩子さん
大学卒業後、一般企業へ就職。退社後、香水専門店での店長を経て、リゾートホテルのスパ施設にてセラピストとして勤務する傍ら、アロマ講師としてレッスンを行う。2009年、結婚を期に家事育児に専念するため一時休業。2013年「create aroma space Rauha」をオープン。現在は、アロマ空間コーディネート・アロマプロダクトコーディネート・レッスン講師などを通じ、「香りスタイリスト」として活動している。
※2018年度取材
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