起業のきっかけ
会社員だった頃に行った海外旅行で、国際交流に目覚め、退職して2年間カナダに留学。その体験が今に至る大きなきっかけとなりました。カナダは飲食文化が盛んな国で、映画で見るようなホームパーティーを毎週末開いているんです。家庭でワインやビールを手作りしている人もたくさんいましたね。街中では連日のようにワインやビールの企業イベントが開かれ、飲食店はもちろん、家具店や図書館など、日本ではありえないような場所でも頻繁に行われていました。そうしたイベントのスタッフとして働いたりしながら、初めてクラフトビールを知ったんです。日本にいた頃はほとんどお酒を飲まなかったのに、各地でクラフトビールを味わい、その多様性に驚くうちに、カナダのビール文化にすっかり魅了されていました。
また、海外で暮らしてみてあらためて認識したのが、地元金沢の良さ。「日本に戻ったら、地元に根ざした何か新しいことをやりたい」と思うようになり、浮かんできたのが“金沢発のクラフトビール”でした。初めは漠然とした思いだったんですが、ある出会いから急速に実現へと動き出したんです。2015年の帰国後まもなく参加した異業種交流会で現オーナーと意気投合。「じゃあビールを作ってみよう」とトントン拍子に話が進んでいって。気がつけば、同年4月から東京の研修所で約1年間ビール造りを学ぶことになっていました(笑)。研修所には全国からクラフトビールを志す7名が集まっていましたが、私を除く全員が男性。当時は観光案内所で働いていたので、週1回ペースで金沢と夜行バスで行き来しながら、早朝から夜まで立ちっぱなしの研修に励みました。体力的にはキツかったものの、醸造法だけでなく他社の見学や醸造家も紹介してもらえ、この研修所での経験が今の仕事の大きなベースとなっています。
そんなハードでタイトな研修と同時に会社組織や製造所作りも進めていて、2015年7月には「株式会社金澤ブルワリー」を設立。2016年1月には発泡酒製造販売免許を取得しました。取得にあたり製造場所や機械の複雑な書類作成が必要でしたが、研修所の方たちと何度も税務署に通い、取得までこぎつけることができました。そして同年3月に研修を終えるとすぐにビール製造を開始。当初は「たった一人でビールを作っていくことができるだろうか」とすごく不安でした。でも、親会社や研修所の方のサポート、友人知人の紹介や口コミがあって、徐々にお客様も製造量も伸びていったんです。今思うと自分一人の努力だけでは、けしてここまでたどり着けなかったと思います。
自社の強み
研修中に知り合い、何かと相談にのっていただいていた醸造家の藤木さんが2017年12月に入社。日本酒やクラフトビール業界で30年近く培ってきた技術を存分に活かしてほしくて、私がスカウトしたんです。おかげで「酒類製造・販売業免許(酒母)」の免許が取得でき、自家製酵母を使ったビールを製造・販売し、酵母も販売できるように。おそらく、社内に滅菌状態で酵母を自家培養できるラボがあるのは、全国でも3、4社だと思います。ほとんどの会社は既成の酵母を購入しているんです。当社では20種類の自家製酵母を駆使して、多種多様なビールをつくれるのが強み。最近は自社ビールのほかに、飲食店とのコラボ商品のオーダーも増えてきました。また、ビール以外の醸造免許も2017年に取得したので、今後は近年人気のジンジャーエールを麦芽不使用のグルテンフリー商品として開発し、カテゴリーの幅を広げようと考えています。
製造開始から2年あまりは樽のみの販売でしたが、2018年8月にビン販売を開始。それ以来、一気に取扱店が増えましたね。飲食店だけでなく、一般の方にも手に取っていただける機会が増え、知名度もぐんとアップしました。2019年3月からは工場に隣接した直営ショップで販売も行っています。現在は、ビン販売は、小瓶(330ml)ではアメリカンペールエール・ヴァイツェン・ビタースタウトの3種、シャンパン瓶(750ml)ではバーレイワインといった珍しいワインのようなビールを2種と、計5種を販売していますが、さらに種類を増やしたい。そして石川・金沢の特産品として「金澤麦酒」を国内外に発信していきたいですね。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
株式会社 金澤ブルワリー:鈴森 由佳さん
東京で1年間、ビール造りを学び、2015年7月7日に「株式会社金澤ブルワリー」を設立。製造販売免許も無事に取得し、金沢市でビールづくりを開始。 クラフトビール「金澤麦酒」を製造・販売している。当初は一人で醸造を行っていたが、醸造研修中に出会った醸造家・藤木龍夫氏が1年半後に入社。その後、社内に酵母を培養するラボを設け、自家製酵母の販売やレストランとのコラボ商品なども手がけている。
※2018年度取材
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