起業のきっかけ
私は名古屋で生まれ育ち、大学も就職したのも地元。そこで知り合い結婚した主人が、金沢大好き人間だったんです。つきあっていた頃から「いずれ金沢にUターンしたい」と聞いていて、金沢の歴史や文化の豊かさにもふれていたので、ごく自然に同じ未来を見ていました。名古屋にいた頃、私は大手人材派遣会社で法人向け担当として働き、とても充実していましたが、「金沢に行ったら、起業したい」という考えがありました。大企業は仕事のスケールは大きいけれど、個人がやれる範囲は限られている。だったら起業して、自分の思いでやりたいことをやりたいと。そして2015年、名古屋で教師として働いていた主人が退職して、いよいよ金沢に行こうという流れになりました。二人で共に起業することになり、さて何をしようと、地元の経営者に相談すると、「新幹線開業の影響で宿が不足している。海外旅行者も増えつつある」とのこと。それなら、ゲストハウスに需要があるのではと、やってみることにしたんです。
金沢へは2016年4月に転居。古民家を改装したゲストハウスの物件も借りられ、すぐに営業できると思っていたんですが…簡易宿泊所の営業許可の取得に手間取り、開業できたのは同年9月でした。スタートしたものの、半年ほどは全然お客様が来なくて、「世界中の人から嫌われてるのかな」と(笑)。運転資金は二人の退職金、クラウドファンディング、知人の支援で賄いましたが、1年目はほとんど収入がない状態でした。また、私たちが当初携わっていたのは接客や清掃などで、予約業務・料金決済などの運営面を他社に任せたため、本当にやりたかった「きめ細やかなホスピタリティー」ができなかった。結局はそうした不満が募って、運営面も含めて私たちが全てやることになりました。
それからは、苦労した営業許可の取り方などゲストハウスの経営について一から学んでいきました。建築士など関連業者ともコツコツとネットワークを築き上げていったんです。お客様にも丁寧な接客ができるようになり、おかげさまで今は自分たちが思い描いた運営ができています。振り返ると、最初なかなか思うように進まなかったのは、初めての起業に怖気づいて、事業の根幹部分である「運営」を人任せにしてしまったせいだったんだなと思いますね。
自社の強み
旅音が提供するのは、「現地の博識のある友人」のような接客です。地元をよく知る友人がおせっかいを焼いてくれるような。だからチェックイン時のヒアリングにはすごく時間をかけますね。旅の目的・食事の要望などを詳細にうかがい、ガイドブックなどに載っていない、私たちがふだん使う良質な店をご紹介しています。お客様は日本文化に関心の高いヨーロッパの方が多く、金沢独自の文化にふれたがっています。当社の町家ゲストハウスを気に入って、リピートしてくださる方も多数おられます。
こうしたお客様の要望を汲み取るために、宿のアンケートやネットのクチコミを定期的にチェックし、対応を改善したり備品を増やしたりと、常にカスタマイズしています。その積み重ねもあって、お客様のクチコミや紹介によって順調に客足は伸び、開業2年あまりで宿数は16棟に増えました。新幹線開業で海外客が伸びる時期と重なったこと、地元でゲストハウスをいち早く手がけたため話題性があり、認知が一気に広がったことなど、タイミングのよさも成長を後押ししてくれたと思います。
宿はこの先、30棟ぐらいまでは増やそうと考えています。だからといって、宿泊事業に特化してやっていくつもりはないんです。私たちが金沢に来た本来の目的は「金沢のためになることをする」。ただ観光面で潤えばそれでいいということではなく、金沢に関わる人を増やしていきたい。多様な人たちが、金沢の古いものを大切にしながら、新しいものを取り入れていくことで、より魅力的な街になると考えています。それには、移住やシェアハウスといった分野の関わり方もあるのかなと。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
株式会社こみんぐる:林 佳奈さん
夫の故郷の金沢にUターンし、2016年に夫妻で一棟貸し宿泊施設(旅音)の運営会社を立ち上げる。古い町並みや文化と新しい動きが共存する金沢の魅力を、ゲストハウスを通じて発信している。2018年3月現在、金沢市内で16棟を運営。
※2018年度取材
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