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発酵のある暮らしで健やかに。
自分の「好き」を誰かのために役立てたい

発酵かっかごはん:小堺奈緒子さん

起業のきっかけ

専門学校卒業後、病院での医療事務やドラッグストア勤務などを経験。登録販売者として働いた薬局を誰でも立ち寄れて気軽に相談もできる場所にしたくて、イベントを企画しました。食と健康を組み合わせたテーマが好評で、初めて来店された方とも自然に会話ができ手ごたえを感じました。

その頃、結婚・出産を経験。職場復帰してみるとお母さんってとにかく忙しいんです。子どもにはちゃんと食べさせたい。だけど時間に追われる。短い時間で簡単においしいごはんを・・・と考えていたとき、ブームに乗って塩麹を使ってみたら期待以上に良くて。薬局の仕事で知っていた酵素と同じように、麹も体に負担をかけないものだから、健康と絡めてイベントにしたらどうかな、ごはんも簡単でおいしくなるしいいなって。それが発酵食との出会いでした。せっかくなら皆さんにわかりやすく親しみやすくお伝えできたら良いなと思い、発酵についての勉強をして「上級麹士」になりました。そこから「食と健康」をテーマにしたイベントをスタート。育休中や職場に復帰したお母さんたちから「体にいいものを家族にもつくりたい」「短時間でできておいしい」「レシピを教えて欲しい」といった声が届くようになり、簡単でおいしいをモットーに日々仕事や育児で忙しいお母さんや女性と発酵のある暮らしを共有する教室「発酵かっかごはん」を立ち上げました。

当初は薬局での仕事と両立しており、休日を利用して月に2~3回、自宅で料理教室をしていました。次第に、自分がやりたいことや伝えたいこと、楽しいと思う気持ちが教室の方が大きくなっていき、家族に相談することに。初めは「今のまま働いていた方が安定してるしいいんじゃない?」という反応でしたが、何度も話すうちに本当にやりたんだと分かってくれたようで、「やってみたら」と背中を押してもらい、2020年3月に開業届を出しました。

開業した矢先、コロナ禍で社会は激変。教室の開催がどんどん難しくなる中、コロナ禍だから何もできないと立ち止まってしまうのがイヤで、発酵食品や発酵調味料を使ったお弁当やスイーツの販売を始めました。体にいいものに対して、難しい、味気ないというイメージを持っている人が多いと感じていたので、気軽に食べられてよさを実感できる機会になればと考えたのです。販売に必要な飲食店営業許可を取得するためには、家族用のキッチンを2階に新設するなどの改装をしなくてはならず、子どもたちの成長を考えると大きなお金を使うことに不安はありましたが、「体にいいもの=我慢というイメージを覆す!」と心に決め、コロナ禍での事業継続に関する補助金も活用して環境を整えました。現在は、マンツーマンやグループでの料理教室と予約制のテイクアウト、オンラインショップを組み合わせた営業をしています。

小さな看板を掲げるのみ。自宅のため、予約のお客様に直接場所を伝えるスタイルをとっている。

発酵食品や発酵調味料を使った予約制のお弁当。月ごとにメニューを決め、SNSやホームページで発信する。

大変だったこと

料理という誰にでも身近で正解のないものを仕事にする難しさを感じ、教室をするのが怖くなったことがありました。例えばキャロットラペは味付けが違っても見た目に大差がなく、誰かのマネじゃないのかと言われても証明しようがありません。自分だけの料理って何だろう、完全にオリジナルのレシピってあるのだろうかと悩んでいたとき、ある先生の「自分がしたいことを来てくれる人とつくり上げるのが教室。あなたの教室として開くならもうすでにオリジナルだからそれでいいのよ」というアドバイスで迷いがなくなりました。その言葉は今も私の励みになっています。

人に来てもらうために、知ってもらう機会をつくる。いわゆる集客方法については、今も模索中です。これまでの経験で大切だと思うのは口コミ。InstagramなどのSNSやホームページもやっていますが、言葉にすると本当に伝えたいこととずれてしまう気がして、月に1、2回ほどしか更新できていません。でも、教室に来てくれた方からお友達へという感じでお客様が増えており、本当にありがたいです。

今の悩みといえば、一人でできることには限界があって、お客様の要望に応えられない場合があること。お弁当やおやつの注文があっても、教室がある日は対応できないこともあって難しいなと感じます。教室、販売、商品づくり、どれもやりたいことですし「発酵かっかごはん」を継続していくためにも必要なこと。事前に製造と発送の日を決められるオンラインショップに力を入れてみるなど新たな試みをしながらベストな比率を探したいと思っています。

体にいいもの=我慢のイメージを一新する、RAWアボカドチョコバナナタルト

コンセプト・強み

私は料理も生き方もその人の自由でいいと思っています。お金をかけて健康食品やオーガニック食材にこだわるのももちろんいいのですが、何か一つだけでも続けることには意味があるので、そのお手伝ができたらと考えています。料理教室も発酵食もいろいろ協会がありますが、自分がつくってみておいしかったもの、よかったものを自由に取り入れ皆さんと共有したいので、私はどの団体にも属していません。

今はとても便利な時代で、“○○のたれ”がたくさん販売されています。でも、日本人は昔から、醤油や味噌などの発酵調味料で味付けをしていて、今もその組み合わせさえ知ればそれだけでおいしい料理がつくれます。「健康を考えるなら、まず調味料を変えることが生活に取り入れやすい」「醤油は大豆、小麦、食塩からしか出来ていないので原材料を見て選ぶといい」といった知識もレシピと一緒にお伝えしています。

何度も来てくれている方から、「炊き込みご飯とおかず」などリクエストをもらうこともあります。それは、家族のことも考えてのこと。だって、自分だけが体にいいものやおいしいものを食べたいならランチに行けばいいことですから。何度も試作してレシピをつくるのは簡単ではありませんが、そんな思いに私の好きなことや知識がお役に立てばという気持ちで希望に合わせてレッスンを組み立てています。

お子さんに卵アレルギーがあるご家族に、「動物性乳製品、小麦、卵、砂糖不使用のRAWケーキだったらクリスマスも誕生日もきょうだいで同じホールケーキを食べられる」と喜んでもらったことがあります。おいしい、楽しい、うれしいという偽りのない言葉と心からの笑顔が私のモチベーションです。

“ご褒美感覚”を大事にしたいと、ケーキなどのスイーツは甘さや食べごたえ、見た目にも妥協なし

今後の展開

新しく「薬膳麹士」の資格を取得したので、さらに麹についての知識が広がるなどおもしろい内容の教室を開いていけたらと思っています。また、知識を深めたい方を対象に、初級麹士育成講座を開くことも視野に入れています。動物性乳製品、小麦、卵、砂糖不使用のRAWケーキももっと多くの方に食べてもらいたいもの。体にやさしいうえに満足感があっておいしいので、自信を持って発信していきたいです。

本当はおすすめのものを食べてもらえるカフェをやりたいんです。去年マルシェに出店した時、「すごく気になってたんですけどなかなか勇気がなくて。家の近くだったので来ました」という方が結構いらっしゃって。見ていてくれることがうれしかったですし、気軽に来てもらえる場所があるといいんだなとも感じました。開業するときも自宅と別の場所を用意することを考えたのですが、なかなか難しくて。経営やお金に関わることなので、すぐ実現できる話ではありませんが、いつか叶えたい夢です。

地元石川県の酒蔵の大吟醸酒粕を使った、大吟醸抹茶ショコラはフワッと酒粕が香るリッチな味わい

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

起業した今でも、自分がやりたいことや好きなことがブレたら終わりだと自分に言い聞かせています。一人でできることには限界があるので、どこまで自分が妥協できるか、何を守りたいのかを明確にしておく必要もあります。「発酵かっかごはん」は、生活の中に取り入れやすく、小さくても変化のきっかけになるような情報を共有する場。だから、効率が悪くても自分がつくってみていいと思ったレシピ、体にいい素材を使った商品だけを届けるという姿勢は曲げません。

起業するとき、一番大事なのは気持ち。私がそうだったのですが、どうしようと思っているうちは、まだそこまでの気持ちがないのだと思います。安定やお金、生活などいろいろある中で、それでもやりたいという気持ちが上回った瞬間が踏み出すとき。あとは先進あるのみです。人のアドバイスや意見を聞くことは、こり固まった考えを整理するのにいいことですが、結局決めるのは自分。あまり人の意見を聞きすぎないことも大事です。

確かに大変なことも多く、組織にいた方が収入的にも安定しています。でも私は、個人として経験できること、出会える人、学びが圧倒的に増え、起業して良かったと思っています。

profile/ プロフィール

発酵かっかごはん:小堺奈緒子さん

上級麹士、食生活アドバイザーなど食に関する資格と2児の母としての経験をいかし、普段のごはんやおやつに発酵を取り入れる料理教室を主宰。発酵食品を使った自家製調味料やスイーツなどの販売も行う。教室名の「かっか」は、愛児たちが幼い頃から呼ぶ「かっか!(お母さん)」から名付けた。
https://lit.link/kakkagohan

2021年度取材

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