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骨盤底筋に着目したトレーニング考案
女性の人生をフェムケアでサポート

パーソナルスタジオ「Infinity(インフィニティ)」:松本 かおりさん

起業のきっかけ

金沢で学んでいたメキシコ人留学生の現在の夫と知り合い、結婚後2013年に夫の勤務地のアメリカ・ロサンゼルスに移住しました。それまで化粧品会社で働いてきましたが、これといって誇れるものもなく、「海外で何かやり遂げたら、すごく自信になるのでは」と考え、夫の趣味だったボディビルを一緒に楽しむことに。早速ボディビルで有名なトレーニングジムに入会し、トレーニングを開始しました。ボディビルは一見すると派手に思われがちですが、コツコツと自分と向き合う世界。一人で黙々とトレーニングし、食事や睡眠など生活全般を体づくりのために管理します。地道な努力が着実に成果となってあらわれるスタイルは性に合っていると感じましたね。
その半年後には、ビキニ選手としてコンテストに出場しました。ビキニ枠は当時まだ新しいカテゴリーで、セパレートの水着を着て“ビーチで映える女性の健康美”を競うもの。筋肉力だけをみせる枠でなく、初心者にも挑戦しやすかったんです。初めてのコンテストで思いがけずトップ5に入り、「もっと上位にいきたい」とさらに挑戦を続けました。そのうちに大きなプロチームから声がかかり、有名なプロ選手から指導を受けられるように。指導者主催の大会にも出場して、優勝や準優勝を重ねられるレベルまでステップアップできました。活動をSNSで発信していたので、「日本人初の快挙」と日本のフィットネス業界にも注目されるようになっていきました。

2015年にロサンゼルスの大会で総合優勝を果たす。

4年間の活動後、2017年に単身帰国し、夫の仕事の事情で金沢に定住。当時、地元ではまだボディメイクフィットネスは盛んでなく、女性の指導者はほぼいませんでした。帰国を知ったファンから「本場アメリカのフィットネスを教えてほしい」という声があり、ジムの一角を借りて女性専門に指導をスタートしました。内容はマンツーマンでの筋トレと食事指導です。すでに金沢でも開催されていたビキニコンテストを目指すお客様も多かったですね。2019年には「女性のための健康と美容の促進」をテーマに正式に起業し、スタジオもよりプライベートが保たれる空間に移転しました。その後まもなく「美尻ブーム」がおこり、ヒップアップを目的とした2040代女性を中心にお客様は定着。美尻のプロとして、テレビなどのマスコミでも紹介されるようになりました。

ところが、美尻ブームが浸透するにつれ、トレーナーも増加。差別化を図るため、「もっと女性に寄り添えるテーマを見つけたい」と模索するようになりました。今後のニーズを考え、女性の活躍はさらに広がる、ならば女性性を鍛えるトレーニングを、と着目したのが骨盤底筋(PCマッスル)です。女性の子宮や膀胱、膣に関わる筋肉で、鍛えることで生理痛や頻尿、尿漏れなど女性特有の悩み解決に役立ちます。私自身40歳を目前に、これまでになかった体のゆらぎを感じていたので、まずは自分で試そうと、骨盤トレーニングを開始しました。すると、みるみる体つきが変わり、骨盤が上がり、腰回りや足が引き締まり、足が長く見えるように。生理痛や冷え性、尿漏れが改善し、顔つきも「女性らしくなった」と言われることが多くなったんです。「これはすごい!多くの人にこのサービスを提供したい」と専門スタジオの開設を決意。202211月、女性のデリケートゾーンをサポートする「フェムテックケア」のためのパーソナルトレーニングスタジオ「Infinity(インフィニティ)」をオープンしたのです。

コンセプト・強み

北陸初のフェムテックに特化したパーソナルトレーニングスタジオであること。フィットネスの本場、アメリカで世界トップクラスの指導を受けたボディメイク技術をもとに、骨盤底筋・膣を鍛えるトレーニングと美尻トレーニングを融合した「骨盤底筋トレーニング・松本かおりメソッド」を考案しました。これまでのお客様層は、ボディラインの崩れを気にする3040代の方中心でしたが、このメソッドは生理・出産・更年期など女性のライフステージそれぞれの悩みに対応できるため、現在は20代~60代の幅広いお客様にご利用いただけるようになりました。

骨盤底筋(PCマッスル)を鍛えることで女性特有の悩みを改善できる。

フェムケアというデリケートな分野を実践するにあたり、スタジオの場所も厳選しました。新スタジオは閑静な住宅街の一軒家で、隠れ家的な女性専用のスペースです。ここでカウンセリングをもとに、体だけでなく内面の潜在意識にまでアプローチし、お客様の課題を解決していきます。完全にリラックスできる空間で、運動しながら会話することで心が解放され、心身が良い方向へと導かれます。

高い天井、大きな窓から日差しが降り注ぐ開放感あふれるスタジオ。

これまで私は外から見える筋肉を意識したトレーニング法を指導してきましたが、骨盤底筋トレーニングを通して、目に見えないインナーマッスルの重要性を身を持って体験しました。単に見た目がすっきりと若返るだけでなく、さまざまな不調が改善し、体の中から健康に美しくなれるフィットネスなのです。10年目にしてこんな効果的なトレーニングはこれまで経験したことがありません。女性の人生をサポートする究極のコアトレーニングとして、今後ますます広がっていくべきだと感じています。

大変だったこと

「フェムケアのための専門スタジオをつくろう」と思い立ったものの、当初は女一人での立ち上げは難しいだろうと思っていました。トレーニング器具の購入やスタジオの改装費など初期投資の大きさにひるんでしまい、「夫がいたらサポートしてくれるのに」と弱気に悩まされていました。そこでニーズはあるのかと、ネットで「骨盤底筋」を検索してみると、「フェムテック」というキーワードがどんどん出てくる。昨今の女性の社会進出にともない、長らくタブー視されていた女性の体の問題に社会で取り組む新たな流れが生まれていたんです。また、どの女性誌にも「フェムテック」「フェムケア」という言葉があふれ、特集が組まれるように。「自分がやろうとしていることは、これからの市場の重要なキーワードだ」ということを確信しました。

その後、知人にスタジオの構想を相談するとすぐに物件が見つかり、ISICO(公益財団法人石川県産業創出支援機構)に資金面を相談すると、小規模事業補助金や日本政策金融公庫からの融資を受けることができました。何より、ISICOの担当者の方が「すごくいい着眼点です。今やれば先駆者になれます」と言ってくださったのが、励みになりましたね。応援してくれる人たちがいる、自分のひとりよがりじゃないと思えることで勇気が出ました。後は怖がっている自分を打ち破るだけだと。結局は20222月にスタジオ開設を思い立ってから、11月にはオープンというスピーディな展開に。1番のハードルは自分自身の臆病な心だったと気づかされました。

やりがい

新スタジオを設立してから、既存のお客様がよりお悩みを相談してくださるようになりました。トレーニングが終わった後も「あー楽しかった!」「私の1番の癒しです!」と心から喜んでくださっている様子がうかがえます。完全に独立した空間で私との親密度が高まり、より信頼関係が強くなったと感じますね。5060代のお客様の中には通い始めて34か月で尿トラブルが治ったという方も多く、新しいメソッドの即効性に驚かされています。

体と心の両面からアプローチするトレーニングを実践。何よりも対話を大切にしている。

私のメソッドの効果のひとつに「人生が変わる!」とあり、このフレーズに興味を持たれる方がかなり多いんです。これまで実際に、指導によって体が変わり、自分に自信が持てるようになり、昇進や結婚をしたり、うつが治った方もおられます。人が変化するとき、体だけが変わることはありません。体がよい方向に変わると心も必ず好転していきます。確かに女性は男性に比べ、ホルモンの変動で心と体がゆらぎやすいです。しかし見方を変えれば、女性のほうが柔軟性があり、感情を素直に表現できる分、ストレスやトラブルを乗り越えていきやすいのです。傷ついたり弱ったりしても、また生き生きと立ち上がっていく女性たちの姿を見るたびに、この仕事の使命感を感じますね。

今後の展開

スタジオでマンツーマンでお客様の悩みに深く関わる一方、フェムケアを多くの女性に知っていただき、つなげていく活動も積極的に行っていきます。具体的には、SNSや講演会、書籍などでの発信や、女性のライフステージをテーマにボディメイクや婦人科系医療、サポートアイテムを紹介するイベントを開催したいと考えています。さらに、熱心にトレーニングしている女性たちのために、コンテストのような競争ではなく、がんばった自分を表現する場としてボディをお披露目するショーのようなものがあってもいいかもしれませんね。

トレーニングをする女性のために、気持ちが上がるウェアの開発もやっていきたいです。楽だからといって部屋着のようなスエットやジャージだと、体の変化にも気づきにくいですし、気分もゆるんだままになりがちです。着心地の良さはもちろん、トレーニングによって引き締まってくる腰やお尻をさらに引き立てる理想的なウエアを目指したいです。実際、私が身に付けているウエアを、お客様方は「お尻がきれいにみえる!」と欲しがってくださるので、きっと多くの方のニーズがあると思います。

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

多くの女性たちは起業を前に不安にとらわれるのでは。特に資金面で躊躇してしまいがちですよね。でも、「必ずこの仕事にはニーズがある」と覚悟を決めて動き出すと、サポートしてくれる人があらわれ、よい方向に向かっていきます。私も立地・内装ともに思い通りの物件に出合え、資金の目途もつくなど、何かに導かれるような感じでここできました。時代に求められるものは、きっと世の中に出られるようになるのだと思います。

起業を決心してまず私がやってみたのは、「フェムケアのトレーナーとはどんな人か」を具体的にイメージすることでした。浮かんできたのは、女性らしく包容力があり自立した、時代をリードするような人物像。そんな女性に近づけるよう、ファッションからメイクまで文字通り“成り切った”のです。テーマカラーには、骨盤底筋をイメージして生命力や女性の生殖器をつかさどる「赤」、メンタルを意味する「紫」を融合した「マゼンダピンク」を選び、ロゴにも使用しました。こんなふうに自分をワクワクさせる方法で起業にアプローチすることによって、資金面の不安もかなり克服できましたね。

マゼンダピンクをあしらったロゴ。「∞」のマークは骨盤底筋の形「8」とInfinity(無限大の、永久の)を示す。

現在のスタジオは私のコンセプトのすべてが詰まった空間です。まさに私の子どもであり、夢の象徴。ここで指導することがすごく楽しく、勇気を出して踏み出して本当によかったと思います。毎日「もっとこんなふうにしてほしい」とスタジオのほうからアドバイスをくれているような気がして、これからもこのスタジオとともに進化していきたいです。

profile/ プロフィール

パーソナルスタジオ「Infinity(インフィニティ)」:松本 かおりさん

金沢市出身。2013年にロサンゼルスに移住し、ビキニ選手として4年間本場アメリカの大会に出場。「ボディビルのメッカ」として有名なベニスゴールドジムでトレーニングに励み、数々のプロ選手や、世界トップクラスのコーチから直接指導を受ける。2015NPCフィックワールド選手権優勝・総合優勝、2016NPC・デクスタージャクソン・クラッシック・メンフィス大会優勝・総合優勝など、数々のコンテストで受賞を重ねる。2017年に帰国し、金沢で女性専門のパーソナルトレーナーとして活動開始。2019年には「女性のための健康と美容の促進」分野で開業し、延べ300人以上の指名を受け、その人気を確立。202211月に北陸初のフェムテックに特化したパーソナルスタジオ「Infinity(インフィニティ)」をオープン。

インフィニティ公式HP

2023年度取材

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