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Instagramで結ばれた信頼関係
フォロワーの目線を問題解決に役立てたい

料理家・インスタグラマー:misakiさん

起業のきっかけ

20代前半は東京で働いていましたが、東日本大震災に遭遇し、「親のそばにいてあげたい」と地元にUターン。まもなく結婚し、金沢で暮らした後、夫の実家近くの中能登町に移住しました。子育てしながら週5日のパート勤務をこなす中で、「いずれは得意な料理を生かして、料理教室なんかをゆるっとできたらいいな」と漠然と考えていました。正社員として企業に所属するのではなく、「パートしながら起業」というのが頭のどこかにあったんです。

そんなときにやってきたのがコロナ禍。「これはもう、自分で何か始めないとこの先どうなるかわからない、すぐに動かないと」と切羽詰まった気持ちに駆られ、2020年5月からInstagramでの発信を本格的に開始しました。フォロワー数を増やして、私という人間を広く知ってもらい、料理教室などの仕事につなげたいと思ったんです。心がけたのは、レシピをわかりやすくきっちり伝えていくこと。毎日発信することによって、フォロワーは順調に増えていきました。でも、それだけでは単なる「料理ができる人」として埋没してしまいます。今後活動していく上で枠を絞りたくなかったので、より私らしさが伝わるように、子育てや人間関係についての考え方、能登暮らしの様子を織り交ぜながら発信していきました。

投稿を続けるうちに、さらにフォロワー数は増え、約3か月で5万人に達しました。同じ時期に能登の魚醤「いしる」にハマり、その良さを伝えるレシピも盛んに発信するようになっていました。「いしるを買いたい」というフォロワーの要望に応え、InstagramとROOM(紹介した商品が購入されるとポイントが付与されるSNS)を連動し、おすすめのいしるを紹介すると、売り切れが続出。全国的にいしるが品薄状態になり、発信がもたらす影響力に私自身が驚いてしまいました。ちょうど緊急事態宣言の真っ只中で、在宅で過ごす人たちが増え、レシピの需要が急増した頃と重なったせいかもしれません。

その年の秋には、Instagramのメッセージに出版社から「料理本を出しませんか」というメッセージが相次ぎました。最初は詐欺かと思ったのですが、本物の東京の大手出版社からの打診でした。その中から、企画内容に共鳴した宝島社から出版することに。コンセプトは「簡単調理」「家にある調味料でOK」「化学調味料不使用」。子育て中の忙しい主婦をメインターゲットに、無水調理鍋ひとつで手軽にできる106のレシピを考案しました。いしるが中々手に入らない人のために、いしるを使ったレシピも全て「いしるなし」のレシピにアレンジ。コロナ禍で面談もままならない中、オンラインで打合せを重ね、制作を進めていきました。

本を出すことが決まった時点で、これからは軸足を「料理家」に置いて活動しようと、2021年4月に開業届を出しました。この後、料理本『ほったらかして、完成です。』は2021年8月に出版。Instagramとさらにもうひとつ、本という大きな名刺ができたことで、私の人となりを知っていただくツールが充実し、集客や企業様との商談によりつながりやすくなったと思います。

料理本『ほったらかして、完成です。』(宝島社)。Instagram内でよく使っていたキャッチフレーズ「ほったらかし」を編集者が気に入り、タイトルに採用した。

やりがい

Instagramを本格的にやり始めた当初は、どうしたらフォロワーが増えるのか、暗中模索状態でした。
フォロワーの多い他のアカウントの文章や画像の見せ方を分析し、「私だったらこうする」と考えながら発信して反応をみる、という実験を毎日続けました。すると、いい投稿をすると、フォロワーが増えるし、コメントが多い。そのダイレクトな反応が楽しくなってきたんです。趣味でInstagramをやっていた頃は「フォロワー数が多いのは、素敵な人だからなんだろうな」と気楽なものでしたが、分析すればフォロワーが増やせるとわかってから、俄然スイッチが入りました。いわゆる「マーケティング」をInstagramでは簡単に学べるんだ、と思いましたね。

写真の見せ方や文章のフレーズにもこだわり発信しているInstagram。

自分がそうした分析をするのが好きだということにも、改めて気づきました。思えば、「がっちりマンデー!!」や「カンブリア宮殿」といった企業の戦略を紹介したテレビ番組を好きでよく見ていました。また、普段から自分自身をよく分析しながら行動していたので、知らないうちに「自分マーケティング」もしていたんでしょうね。

コンセプト・強み

フォロワーがここまで増えた背景には、「いしる」との出会いも大きかったと思います。もともとタイ料理が好きでナンプラーをよく使っていましたが、金沢の料理店でいしるを使ったタイ料理を食べて、その美味しさに驚きました。調べてみると、いしるとナンプラーはほぼ材料も製法も同じだったんです。能登の道の駅でたまたま見かけて使ってみると、その奥深さにすぐにのめり込みました。ほんの少し入れただけで、コクとうま味、塩味が加わり「うわ、うまっ!」となる。味がもの足りないときに入れる市販の中華だしやコンソメみたいなもの、万能の「かくし味」なんです。料理が苦手な人や添加物をなるべく入れたくない人には、すごくいい調味料だと思いました。

いしるレシピ「しっとり鶏ハム」。いしるの力で鶏胸肉がしっとり柔らかく仕上がる。

Instagramを始めた頃、いしるを使って発信しているインスタグラマーは他にいなかったので、「いしるレシピを発信すれば、差別化ができる」と確信しました。さらに、いしるをきっかけに能登に興味を持ち、足を運んでもらえるよう、ストーリーズでのどかな能登の海や山里の風景も紹介していったんです。そうやって「いしるレシピ」と自分の人となりや暮らしをInstagramでどんどん供給し、フォロワーの関心が私自身に向いてきたな、と感じた頃から始めたのがROOM。私が気に入っている「いいもの」を紹介し購入サイトへつなげ、売り上げの1部がポイントとして付与されるSNSです。ここで紹介したいしるが、爆発的にヒットしたことが大きな自信になりました。

最も流通が多く手に入りやすい「ヤマサ商事」のいしる。ROOMで紹介すると一時は入手困難になるほどの人気に。

ROOMのようなアフィリエイト(SNS経由での商品購入で収益を上げる広告手法)は、フォロワー数がそのまま収益につながるわけではありません。フォロワーが発信者のファンとなり、「○○さんのおすすめなら間違いない」という信頼関係が成立しているからこそ、購入に結び付くのです。この信頼関係を築き上げるまでが難しく、どのインスタグラマーもものすごく考えて運営していると思います。

ROOMでは、食やファッション、特売情報などをチェックし、フォロワーにとって有益な情報を届けている。

今後の展開

Instagramや本を通じて、集客や情報拡散が期待できるようになったので、コロナ禍が落ち着いたら、目標だった料理教室をやってみようと思っています。また、いしるが大反響を得た経験を他でも応用できないかとも考えています。

例えば、「いいものを作っているのに売れない」と悩んでいるメーカーさんはたくさんいます。実はその「いいもの」はメーカー目線であって、消費者目線とズレがある場合があります。私のInstagramには、メーカーには届かない生の消費者の声が集まってきます。それをメーカーに伝えて一緒に解決策を考えたい。いわば、作り手と使い手をつなぐ橋渡しのような役割ができたらいいなと。フォロワーは私のことを「自分たちと同じ目線の人」と思ってくれています。その信頼を保ちながら、いろんな面で生かしていきたいですね。

小学生の頃から料理が得意。美味しさを求めて試作を返す研究好きでもある。

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

「ここはブレない」という信念をもって、目の前のことをコツコツとやり続けて、ここまで来ました。やりたくないことはせず、いいと思うことを楽しみながらやっていけば、未来はきっと開けてきます。自分が好きだと思うこと、これならできると思うことを、自分のペースで他の人に惑わされずやっていけば、続けていけるのではないでしょうか。

準備としては、どれだけしっかりと自己分析できるかがカギだと思います。私は常に「あの人はこう思っているけれど、私はこう思う。だからこうする」という分析と実践を繰り返してきました。「私はこんな人」と常に自分を客観視できるようになると、むやみに悩まなくなり、やりたいことを楽しんでできるようになりますよ。

profile/ プロフィール

料理家・インスタグラマー:misakiさん

七尾市出身。料理家。2児の母。コロナ禍をきっかけに、Instagramで手軽においしく作れるレシピや能登の暮らしを配信し始める。能登の魚醤「いしる」を使ったレシピが評判となり、フォロワーは10万人以上に。2021年8月に料理本『ほったらかして、完成です。』(宝島社)を上梓。インスタグラマーとしての豊富な経験を生かし、企業のコンサルタントも行っている。

Instagram/@miichan0709

2022年度取材

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