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やりたいことはいつも“前例がないこと”。きっと大丈夫と逆にガッツが湧く
株式会社金澤MOYU:小坂 治美さん
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起業のきっかけ
化粧品会社に14年間勤務後、自宅でエステサロンを営んでいたところ、45歳頃にひどい抜け毛になり悩んでいました。知人のシャンプーを取り扱う社長さんに見てもらうと、「これじゃ抜けるね」とひと言。渡されたシャンプーを、アトピーのお子さんを持つスタッフと私で使ったみたところ、どんな商品にも辛口だった彼女が絶賛。一方、私は髪はきしむし頭皮は臭くてかゆくてしょうがありません。社長さんからは「それだけひどい状態だったんだから、もう少し我慢して」と言われました。我慢して使い続けると2か月目にして抜け毛の量がすっかり減り、ひどいアトピーだった娘にも喜ばれ、その効果を思い知りました。
ところが、そのシャンプーはコストが高過ぎて生産中止寸前でした。これからも使い続けたい一心で、「だったら私がやります!」と思い切って生産を引き継ぐことに。その勢いで会社を設立し、シャンプーの製造・販売をスタートしました。さらに、どうせ作るなら香りや泡立ちも自分の思い通りのものにしたいと、生産工場を東京から石川へ移したんです。
よいシャンプーをつかってほしいという気持ちは人一倍強かったので、地道にひとつひとつ美容院や皮膚科クリニックを営業回りしました。その中で多く耳にしたのが「石川で作っているシャンプーなのに、石川の特徴が全くないんだね」との声。絶対の自信を持って売っていた商品の弱みに気づいたんです。頭に浮かんだのが、地酒の保湿成分を使ったシャンプーの開発。化粧品会社にいた頃から日本酒の成分の保湿効果は知っていましたので、融資先の銀行や会計事務所に大反対されながらも開発へと動き出しました。
もっとも大変だったのは?
日本酒から抽出される成分がよいとわかっていても、協力してくれる研究者・酒造メーカーが見つからないとどうしようもありません。大学などの研究機関に片っ端から電話しても見つからず、結局スタッフがネットで見つけた金沢工業大学の尾関教授に直談判して、なんとか承諾をいただきました。さらに酒造メーカー探しも難航。県内を探し歩いている姿から本気度を汲み取っていただけたのか、尾関教授がメーカーを紹介してくださったんです。こうして、ようやく日本酒の保湿成分α-EGの抽出とその増産に取り掛かることができました。
開発費は銀行や知人からの借り入れでは足りず、金沢商工会議所、金沢市、石川県産業創出支援機構(ISICO)など、さまざまな補助金を活用しました。当初は申請書の書き方もわからず、途方に暮れることの連続。ハードルの高さにめげていたところ、担当者から期限の2日前に「本当にそれでいいの」と確認され一念発起、指導を受けながら2日間一睡もせずに申請書を書き上げました。その後、専門家が並ぶ面接も切り抜けて、採択事業に選ばれた時は本当にうれしかったですね。
そんなふうに、さまざまな相談機関で説明したり申請書を書くうちに、「ちゃんと自分のやりたいことを人にわかるように伝える」力が次第についてきました。コツコツと積み上げた努力が実り、2年内で商品開発に成功。石川の地酒の力で髪と地肌の潤いを保つ「BE WASH」が誕生しました。「自信がある商品だったので、1年間精力的に営業して軌道にのせ、売上はそれまでの2倍になりました。
今後の展望
私のやりたいことはいつも「前例がない」と言われます。でも周囲に反対されてもシュンとせずに「新しいことだから誰もアドバイスできないのね」とかえってガッツが湧くんです。好きなことだから全然苦にもならない。ある人には“暴走族”と言われたこともあります(笑)。
今後はさらに別の方面、発達障害のお子さんの塾の事業展開を考えています。エステティシャンの頃から学んでいる心理カウンセリングを通じて、生きづらさを感じているお子さんや親御さんをサポートしたいんです。現在、学校の先生である協力者と一緒にさまざまな取り組みを構想中です。また、今の事業は将来的には若いスタッフにまかせたいと思っています。「私はこの会社とシャンプーが好き。できれば引き継ぎたい」と言ってくれたのがうれしくて、10年計画で育てています。経営には「お金を回す力」が必須。年間の売上と経費を見通して、やるべきこと、やる必要がないことを吟味する力をつけさせたいですね。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
株式会社金澤MOYU:小坂 治美さん
2012年 株式会社MOYU設立
2015年 産学連携で取り組んだ保湿成分「α-EG」配合の「BE WASH」を開発・販売開始
エイジングケアを根本に、トリートメントセラピーのサロン、BE WASHの販売、糖質制限パン・低糖質パンの販売を3本の柱に据え、展開している。
2017年5月、セミナールームを完備した新社屋が完成
※2017年度取材
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