起業のきっかけ
結婚、出産を経てそれまで勤めていた会社を退社しましたが、やはり働きたくなって、産後まもなく仕事を探しました。前職は顧客管理部でクレーム対応などを担当することが多かったので、できればお客様に「ありがとう」と感謝される仕事がしたかった。そんな中、見つけたのがケーキ屋さんの製造部門の求人。製造の経験は全くありませんでしたが、ケーキ作りができたら素敵だなと、思い切って飛び込みました。
続ける中で「お客様によりよいものを提供したい」と、製菓衛生師と調理師の資格も取得。店舗の製造責任者を任され、カフェの調理や接客も行いながら、お客様から「ありがとう」の声がいただける日々に充実感を感じていましたね。やっているうちに少しずつ仕事に自信が持てるようになり、オリジナル商品も提案するように。「いつかは自分のお店が持てたらいいな」。そんな夢がぼんやりと浮かんでいましたが、主婦の身には贅沢なことだと思っていました。
私には昔から12年周期で自分を見つめ直す習慣があり、12歳の卒業文集に書いた言葉が「お店を持ちたい」でした。24歳では結婚。36歳を迎える年になって、それまで封じこめてきた気持ちが爆発して「何かを始めなきゃ!」という気持ちが湧き出てきたんです。でも、ケーキ屋を開業するには大金が必要ですし、リスクが大き過ぎます。家庭とも両立しながらやれることはないかと思いついたのが、料理教室でした。ちょうど自宅を新築するタイミングでもあり、2013年4月に自宅での料理教室をスタートさせました。
自分の強み
教室は、お子さん連れで通えるキッズクッキングのスタイルに設定。集客はフリーペーパーの広告やフェイスブック発信で行いました。知人や友人がたくさん来てくれましたが、「軌道に乗るまでは」と他の収入源としてクリエイターの仕事も続けていました。初年度に文化センターの料理教室の講師も決まり、周囲からは順風満帆に見られていましたね。でも、心の中はモヤモヤとしていたんです。その他の講師の方々はホテルの総料理長やレストランのオーナーシェフなど錚々たるメンバー。「お客様に自分を選んでもらうには、何か突き抜けるものがないと」と、真剣に悩みましたね。また、教室の急なキャンセルや出店の際に出るフードロスも課題でした。
「いったい自分ならではのカテゴリーって何だろう」と考えた時、浮かんだのは「可愛い」「ママの手作り」。料理のスペシャリストが居並ぶ中で、私らしさを打ち出す料理以外のブランディングが絶対に必要と、あれこれと探し行き着いたのがキャンドルでした。花や精油などを材料に作るキャンドルなら、料理やお菓子と同じ感性で作れる上に、フードロスの問題も軽減できると思ったんです。早速、兵庫県・芦屋の講師のもとに通ってインストラクターの資格を取得。2014年1月にはキャンドル教室を開講しました。打ち出したのは「ケーキのようなキャンドル」。これが話題となり、雑誌の誌面で紹介されるように。すると「キャンドルだけじゃなくて、本物のケーキも作れる人」と認知度が上がり、フードコーディネーターやレシピ作りの依頼も次々と入ってくるようになったんです。自分のブランディングが思い通りにカチッとハマり、まさにこれが転機となりました。
今、私に求められているのは「映える&美味しい」メニュー。SNS全盛の昨今、写真映えする可愛くておしゃれなメニューづくりは重要。けれど、料理やお菓子には美味しさが絶対条件なんです。そこを忘れると、落胆や飽きにつながってしまいますから。また、最近はヘルシーさも大切な要素ですね。トレンドは常に意識して、ネットだけでなく都心や海外にも出向いて情報収集をしています。それをそのまま打ち出すのではなく、どこかに地元の素材や伝統料理、ソウルフードを取り入れるなど「金沢らしさ」も大事にしています。
今後の展開
2019年からは野々市市の「1の1 NONOICHI」のシェアキッチンに週1ペースで出店しています。隣接の公民館に来館する学生さんや主婦に喜んでいただけるよう、ランチやドリンクを考案して提供しているんです。「いずれは自分の店舗を持ちたい」という夢があるので、ここでの活動はテストマーケティングやファンづくりにとても役立っています。お客様の反応がダイレクトに感じられる場がローリスクで持てるのはありがたいですね。
近年は企業や雑誌のフードコーディネート、ケータリングなどの仕事で、カメラマン、フラワーコーディネーターなど多方面の方とのコラボレーションが増えてきました。1人でやっていた時とは違い、視野も考え方もどんどん変化してきましたね。店舗を開く方法にも様々なスタイルがあると知りました。これまでは家庭と仕事を両立させながら必死で走ってきましたが、今はあせって目標を追わず、変化を楽しみながら好機を待ちたいと考えています。
私にとっては料理もキャンドルも材料が違うだけで、根本は同じ「クッキング」。共通しているのは、生活を豊かにするツールであることです。これからAIが様々な領域に広がる中で、この仕事を通じて、AIにはできない「人の心に潤いを与えること」をしていきたい。私が作り出す料理やキャンドル、レシピなどでお客様がほっこりできたり、幸せな気持ちになっていただけるとうれしいですね。
message/ 女性先輩起業家からのメッセージ
profile/ プロフィール
TMKキッチンサロン:河除 真琴さん
金沢市出身。24歳で結婚。25歳から市内のケーキ店の製造部門に勤務しながら、製菓衛生師と調理師の資格を取得する。2013年に自宅で料理教室をスタート。同年にキャンドルインストラクターの資格を取得し、キャンドル教室を開講。現在は、キャンドル &クッキングのクリエイターとして、企業のフードコーディネート、ケータリング、テレビや雑誌のレシピ考案など幅広く活躍する。2019年4月から「1の1NONOICHI」シェアキッチンの火曜日を担当している。
https://www.instagram.com/tmk_kitchensalon/
https://www.jalan.net/kankou/spt_guide000000190519/
※2019年度取材
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