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ママになっても働きやすい場を実現。夢は、ママたちの力で世界進出

株式会社ウフフ:志賀 嘉子さん

起業のきっかけ

地元の珠洲市の高校卒業後、金沢のウエディングプランナーの専門学校を経て、そのまま就職しました。憧れだった仕事を8年間続けて、やり切った感があった頃に、東日本大震災が起こったんです。ずっと離れて暮らしていた家族のことが心配になり、実家に戻ることに。でもお互いの生活スタイルがすでにできてしまっていたので、何かと衝突しがちで…結局は1年ほどで金沢で仕事を探すことにしました。1年のブランクはすごく不安でしたが、どうせなら、以前から「かっこいい」と思っていた出版社で働きたいと挑戦。結果、全7社に受かり、出版社に入社できたんです。今思うと当時は、採用面接でも「結婚してもずっと働ける職場に就職したい」と主張するほど、“雇われ根性”が強い人間でしたね(笑)。

志賀 嘉子さん

その出版社には半年ほど務め、ヘッドハンティングされて雑誌の編集長になりました。営業をメインに深夜残業が当たり前の生活でしたが、部下を育て、優秀なチームとともに働く日々はとても充実していました。そんな中、会社とのトラブルで突然チームが解散。私も解雇されてしまって…。このとき、どんなに一生懸命やっても、自分の会社じゃないとスタッフや取引先などまわりの人を守れないんだな、と切実に感じましたね。心の底から「もう雇われたくない!」って思ったんです。

じゃあ次に何をしようと、退職してから4~5か月間、もんもんと考えました。元同僚はママになっている人も多く、実績があっても出産後は長時間労働の前職に戻れないという現状を見知っていました。その間に自分も結婚することになり、「ママになっても働きやすい環境をつくりたい」という気持ちがどんどん膨らんでいきました。また同じ時期に、菓子店などの営業代行を請け負っていて、スーパーなどで注文がとれても生産能力が追いつかないことが多く、もったいないな、と感じていて。だったら、自分が、ものづくりをすればいいんじゃないかと。そこで思い至ったのが「焼成冷凍ドーナツ」でした。製造したドーナツを冷凍して全国発送する、卸し販売メインの業務ならば、時間に縛られずに働ける環境が作れる。また、自社開発から手がける“ものづくりの上流”になれば、信頼性の高い大きな会社とも取引しやすいと考えたんです。

コンセプトは、ママが作る子どもが喜ぶドーナツ。最近のママは忙しく、なかなか子供におやつを作れないので、手作りの味を届けたいと。保存料無添加で地元北陸の素材を使用し、安全安心面も考慮しました。こうしたビジネスプランをもとに、2015年6月に起業。貯金を元手に、設備付きの居抜き物件を借り、調理機材は分割支払いで入手。「さあ、いよいよ物件引き渡し」という日に、なんと妊娠が発覚。起業はスタートから波乱に満ちていました。

大変だったこと

開業まもなく直面したのは、ドーナツの品質の壁。慣れない調理機材でスタッフと一生懸命作るものの、味が決まっても形がなかなかよくならない。品質が安定するまで半年ぐらいかかりました。商品だけでなく、流通に関わるシステムにも苦労しました。成分表示やバーコードの付け方、商品を倉庫に保管する費用など様々なことを考えなければならず、取引先に教えてもらいながら、ひとつひとつ覚えていきました。また大手販売先と契約が取れても、問屋が間に入る場合があり、その際の料金交渉も大変なんです。送料負担が折り合わず、2000個のドーナツが返品されてしまった苦い経験もありますね。

最も辛かった時期は、私の出産が迫ってきた頃です。ドーナツの品質が安定してきたのに、営業担当の私が外回りに行けず、売り先がない。毎月赤字続きで、思わず家族に「やめたい」と弱音を吐いてしまいました。すると夫は「やめて何するの」と。母も「援助はどれだけでもするから、やめないで。後で同じことをしようと思っても絶対できないから」と言ってくれたんです。それからは、生んだらすぐに営業に行く、と腹をくくりました。決断どおり、産後1か月で復帰し、赤ちゃんを連れて営業を開始。そのかいあって、売上をすぐに伸ばすことができたんです。

今後の展開

2018年8月には、株式会社を設立。思い切って資金をかけ、コンセプトに合うようにリブランドを行いました。社名を「リッチモンドドーナツ」から「ウフフ」にして、ホームページ、パッケージもすべて一新したんです。その後の評判もよく、取引先、ドーナツの製造量、スタッフも順調に伸びていっています。取引先はイトーヨーカドー、紀ノ國屋、阪急オアシスなど大手スーパーや百貨店がメイン。ISICOの研修や県主催の商談会・展示会に参加した際に、興味をもっていただき、店頭に並べて反響が大きかったことから、どんどん注文が入るようになりました。

起業してからわかったことですが、ドーナツのメーカーは、超大手か路面店に2極化しているんです。手作りでありながら、流通できるほどの生産力がある会社は、実はニッチ。自然解凍で鮮度のよいものが提供できる焼成ドーナツを手がけているところはまだ少ない。それに加えて、「ママの手作り」というキャッチーな付加価値があったところが、よかったんだと思います。

ママが子どものためにつくったおやつ、との思いを込めて、商品名は子ども言葉の「ドーナチュ」に

ママが子どものためにつくったおやつ、との思いを込めて、商品名は子ども言葉の「ドーナチュ」に

これからの夢は…やっぱり世界進出ですかね(笑)。金沢を拠点として、ママたちが世界に通用するものを作っていけたら、面白いと思う。実は現実味を帯びていて、最近、香港のバイヤーから声がかかり、現地のデパートでも取り扱っていただいてます。まさかドーナツで世界進出できるとは(笑)。世界的に機械化が進む中、手作りで勝負です。ママが働きやすい環境で、ママ目線の商品を作り続けていきたいですね。

元パティシエ、栄養士などさまざまな経験を持つママスタッフたち

元パティシエ、栄養士などさまざまな経験を持つママスタッフたち

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

今、スタッフには、木・土・日曜・祝日休みの週4日、8時30分から15時の間の希望に合わせた時間帯で働いてもらっています。無理なく働けるサイクルで、ママたちがのびのびと働いている様子がうれしい。みなさん私より10才ぐらい上の年齢で、子育てが少し落ち着き、働く意欲がすごいんです。経験値が高いので、お客様や周囲への気配りもきめ細やか。私が思いついたアイディアもどんどん形にしていってくれます。私ができるのは、スタッフのやりたいことを極力邪魔しないように、活かしていくことかな、と思っています。

起業で迷っている人にいつも言うのは「すぐにやって」(笑)。フリーランスは自由度が高いので、いつでもどこでも働けるし、家族といる時間もやりかた次第で増やせる。こう言うと、みんなすぐ辞表出しちゃう(笑)。でも、私も経験しましたが、時には血を吐く思いになる場合もあります。決めるのもやるのも自分だから、すべての責任は自分にかかってくるし、やりだしたら簡単にはやめられない。いいことも悪いことも、自分で背負う覚悟でやればいいんじゃないかと思います。「儲かりそう!」ということよりも、「やりたい!」と思うことをやってほしいですね。

profile/ プロフィール

株式会社ウフフ:志賀 嘉子さん

ウェディングプランナーや出版社の編集長を務めた後、女性が妊娠・出産後も働きやすい職場を作ろうと、株式会社ウフフを設立。子どもに優しいドーナツ「ウフフドーナチュ」の製造・販売を行っている。保存料無添加の「ウフフドーナチュ」は子育て中のママスタッフがすべて手作り。カラフルでかわいい見栄え、生地の40%に野菜を使ったヘルシーなドーナツなどが話題を呼び、百貨店や高級スーパーなどで取り扱われている。

https://ufufu-ufufu.com/

※2018年度取材

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