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「ものづくりで店を持つ」夢を実現ワクワクさせる種類豊富なパンを作り続けたい

310(サト)パン:大積 さとみさん

起業のきっかけ

以前からケーキなどのものづくりが好きで、「自分が作ったものを売るお店を持ちたい」と漠然と思っていました。でも、縫製の会社に就職し、結婚して夫の整髪店を手伝ううちに、いつしか遠い夢になっていたんです。それが離婚を契機に、「じゃあ長年の夢を実現しよう!」と本気で考え出すように。興味があったパンづくりを身につけるため、穴水のパン屋で働くことにしました。

そこでは、パンづくり・販売・配達とあらゆることを担当。パンづくりは、あんパンやクリームパンなどのフワっとした生地のものから、フランスパンなどのハード系生地まで全般にわたって学びました。勤めて5年目になり、ひと通り任されるようになった頃、「これだけできるようになったら、もう始めたほうがいいな」と独立を決心。周囲の人たちは心配しましたが、普段の仕事を見ている同僚や友人たちは「大丈夫」と背中を押してくれました。

大積 さとみさん

開業にあたって重要だったのは、店舗兼住宅にできる物件と業務用オーブンでした。パン屋は朝が早く仕込み時間が長いので、職住別々で店に通うのは避けたかったです。業務用オーブンは中古でも500万という高額機材ですし、店舗改装費も含めて金融機関からの融資は必須でしたね。初期費用はほとんどなかったのですが、知人の信用金庫の方に相談するとスムーズに融資が決まり、輪島市から新規事業の補助金が出るなど、とんとん拍子に進みました。ちょうど店舗兼住居用としてたった1つだけ出ていた物件が、町の中心部で立地も良く、本当にラッキーでしたね。

どうせやるなら、パン屋さんらしくないパン屋さんにしたい」と、店舗は大好きな昭和レトロのイメージに統一。お願いした大工さんは友人でもあり、照明や壁板などなんでも気軽に相談できました。昔風のパンケースや和ダンスはネットで探して購入。老若男女のお客様がワイワイ集ってほしいと思い、店内の段差を利用して小上がり席も作りました。

自店の強み

2014年12月のオープン直後は、フェイスブックで1週間前に告知しただけなのに、どっとお客様が来てくださいました。しばらくは午前中で売り切れてしまうほどの賑わいでしたね。勤めていた頃からイベントに出店していたので、認知度があったのかもしれません。オープンしてすぐ、隣に保育園ができ、周囲に住宅が増えてきたのもありがたかったです。

ほっと落ち着く店内。常連から遠方からのお客様まで客足は途絶えない

ほっと落ち着く店内。常連から遠方からのお客様まで客足は途絶えない

パンは毎日約50種類を揃え、その半分はバケットやリュスティックなどハード系にしています。フワフワ生地のパンを出す店は多いですが、輪島でハード系を出す店は現在2店しかありません。それが珍しくて来てくださる方も多いです。また、パンの数が多いと見た目もワクワクするし、選ぶ楽しさもありますよね。数を抑えれば体は楽になるけど、お客様が喜ぶ顔が見たくて、そこはどうしてもはずせないんです。あんこやきなこ、きんぴらごぼうなど和風テイストのパンが多いのは、自分が好きなせいかな。お客様にも好評なので、自然と増えていきました。作りながらアイデアが湧き出てくるので、お客様の反応を見ながらラインナップを変化させていっています。

今後の展開

オープンから数年経つとお客様も固定化してきます。いったん飽きられてしまうと戻ってこないことも。輪島のような場所だと、パン好きの人口も限られるので、新規客の獲得はなかなか難しい。そこで、知ってもらう機会づくりとして始めたのが、イベント出店です。金沢や富山のパンフェスをはじめ、様々なイベントに積極的に参加するようにしています。準備はめちゃくちゃ大変なので、毎回「なんで出ることにしたんやろ」と思うんですが(笑)。出るといろんなお客様が来てくださるし、そこで知ってもらえ、わざわざ店まで足を運んでくださると、やってよかったなと思いますね。店営業だけだと、どうしても「待ち」の姿勢になってしまうので、これからも頑張ってやり続けたいです。

また、能登には手作りパンを食べたくてもなかなか食べられない地域があります。パン屋さんがあっても後継者がおらず閉店してしまったり…。富来での月1回の出張販売は、「富来にはパン屋がないのでやってみないか」と地元の豆腐屋さんにお声かけいただき、店舗の一角での営業が実現しました。当日は大盛況になり、「手作りパンを求める人たちがこんなにいるんだ」と感じます。なんらかの形で、そうしたニーズにもっと応えられたらとも思っています。

あんこやドライフルーツ、クリームチーズなど、ぎっしり詰まった具材も人気の秘密

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オープン5周年には記念イベント「310パンまつり」を開催。小上がり席を使って、消しゴムはんこやハーバリウムのワークショップ、紙芝居やリトミックなどとコラボして、盛りだくさんの内容にしました。お客様が来てくれるか心配だったんですが、予想外に大勢の人たちに来ていただいてうれしかったです。主催イベントはずっとやりたかったことなので、今後は定期的にやれるといいですね。

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

パン屋というとおしゃれなイメージがありますが、実際やってみるとかなりの重労働です。睡眠時間は短いし、接客中はどこにも行けない。やってみて続かない人も多いと聞きます。もし本気でやりたいなら、パン屋さんで修業するなどして、実際の作業サイクルをしっかり把握しておくのが大切だと思います。私は経験があったにも関わらず、週休2日(うち1日はイベント出店が多い)で約50種類のパン作りを1人で回すことがどんなに大変か、営業を始めてから実感しましたから。週何日営業するのか、パンを何種類作るのか、スタッフは雇うのかなど、自分の生活スタイルや体力に合わせて考えておくといいと思いますよ。

でも、私の場合はしんどいながらも、「1人でやるスタイルは向いている」と感じています。店づくりやラインナップなど、すべて自分の思うようにやれる自由さはやはり魅力ですね。イベントでは、同じような思いを持つ出店者に出会え、仲良くなれるのも収穫。お互いの状況や悩みがわかり合え、「がんばろう」と励まし合っています。1人で始めても決して孤独じゃない。相談できる人や仲間とは、後からきっとつながれるはずです。

profile/ プロフィール

310(サト)パン:大積 さとみさん

輪島市出身。穴水のパン屋で5年間働いた後、2014年に輪島で「310(サト)パン」をオープン。たった一人で毎日約50種類のパンを自ら作り販売している。自店舗だけでなく、石川各地のイベントにも積極的に出店。2019年からは富来町でも出張販売を行っている。

https://www.facebook.com/310%E3%81%B1%E3%82%93-114560498877230/

※2018年度取材

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