voice

voice

新旧が息づく金沢に魅了され、移住・起業 古着×新しいモードをパーソナル提案

ME:YOU:金田 美裕さん

起業のきっかけ

ファッションに目覚めたのは16歳の頃。雑誌「non-no」を買ったのをきっかけに、「コーディネートや小物使いでこんなに雰囲気が変わるんだ!」と洋服に興味をもつようになりました。シーンを想像して洋服を選ぶことが楽しくて、気になるファッション雑誌を片っぱしから買って読み、学校帰りに大阪のセレクトショップや古着屋さんに立ち寄っては、洋服やコーディネートを研究しました。そのうちに、「私が感じているこのワクワク感をお客様に届ける側になりたい」と、自分のお店を持つ夢がどんどん膨らんでいきました。
金田さんの写真

夢の実現のためにまず何をすればよいかを考え、販売のスキルを磨くために大手アパレル会社に就職。自分と同世代の1020代をターゲットに全国展開しているカジュアルブランドを選びました。大阪の店舗の販売員からスタートし、4年後には東京・新宿店の店長に。その後、本社での商品企画にも携わりました。この間に販売・商品企画の基礎を学ぶことができたので、次は好きな古着の買い付けを学ぼうと、古着とオリジナル商品を扱うブランドに転職。バイヤー枠で採用され、アメリカでの買い付けなどの経験を積みました。

30歳になるまでには起業したかったので、働きながら場所探しもしていました。自分にとって心地よい環境はどんなところだろう?と自問自答を繰り返し、導き出した答えは自然が身近にあることでした。
人や物、情報にあふれた都市部に疲れを感じていたこともあり、いつしか地方での起業を意識するようになりました。漠然としたイメージのもと、海の近くや離島も検討していたタイミングで、たまたま観光に訪れたのが金沢でした。古い町並みと歴史ある公園、21世紀美術館のような文化施設や商業施設がコンパクトにまとまっていて、新旧のバランスがとても良い。お店を持つなら古着と新しい服、どちらも扱いたいと思っていたので、その融合感はお店のコンセプトをよりクリアにしてくれました。思いがけず、初めて訪れたその日に金沢での起業を心に決めたのです。

移住にあたり、石川県の移住支援サポート機関「ILAC」の東京説明会に参加。起業の意思を伝えると、「ISICO」を紹介されました。それを機会にISICOの担当者に相談するようになり、半年間、東京と金沢を行き来してアドバイスをいただきました。起業や金沢についてもわからないことばかりだったので、金沢の業界の状況や起業の手続き、融資を受ける際の事業計画書まで、とても丁寧に指導していただき、非常にありがたかったですね。

店舗の物件については、金沢市の起業支援サイトで知った不動産屋さんを通じ、長町にある「すみれハウス」に出会いました。大家さん自ら古いアパートを買い取りまるごとリノベーションしたもので、従来は住居の貸し出しのみでしたが、私が内見するタイミングで店舗としても貸し出しされることに。「古いものを再生して新しい価値を生み出す」というコンセプトや「この町をもっと面白く楽しい場所にしたい」という大家さんの思いに共感し、ここでの開業を決めました。静かな住宅街の一角でしたが、人通りの多い「せせらぎ通り」や武家屋敷にも近く、同じ建物にエステや飲食店が入っていたので相乗効果があるとも考えました。201912月に物件の契約が完了。商品は国内外で買い付けて準備を進め、20202月、27歳で自分の小さなお店をスタートしました。

大変だったこと

最も手間取ったのは、初めての事業計画書づくりです。売上目標に説得力を持たせるために、近隣店舗の価格帯や客層を見て回り、それを元にした具体的な数字を出しました。時間はかかりましたが、このプロセスを通じて、店舗経営をイメージでなく現実的に深く捉えられるようになりましたね。一方で、お店のPRにはほぼ苦労はありませんでした。すみれハウスの3店舗がほぼ同時期にオープンしたことから、「古いアパートを改装した珍しいスポット」として地元のテレビや新聞、雑誌など多くのメディアが紹介してくれたのです。中でもスープのお店が人気で、その流れで立ち寄ってくださるお客様も多かったですね。

金田さん店内写真

洋服のほか、アクセサリーやバックなどコーディネートしやすいアイテムも取り扱っている。

2、3月は観光客も多く順調でしたが、4月に入ると新型コロナウイルス感染拡大の影響で客足がパタリと途絶えてしまいました。勢いだけで見知らぬ金沢に身ひとつでやってきたので、知り合いはほとんどなく、縁もゆかりもない土地で、孤独感をどっぷりと味わいました。まだまだお店の知名度も低い中で、これからどうやっていこう…と途方に暮れ、毎日不安でした。そんな私を心配して励ましてくれたのが、すみれハウスの店舗や近隣のお店、お客様、大家さん、ISICOの方々。そのおかげでなんとか立ち直り、苦しい時期を乗り越えることができました。

自店の強み

テーマはわたしとあなた。お店とお客様の出会い、お客様とお洋服の出会い、今日までの自分とこれからの自分との出会い、素敵なわたしとあなたの出会いをご提供できますようにそんな思いを込めました。古着は全て1点もの、セレクトアイテムも少量入荷のため、訪れるたびに変化のある商品展開やその中でお気に入りを見つけ出すこと、物や空間との出会いを楽しんでいただきたいと考えています。

商品セレクトは2人の女性をイメージして行っています。1人は洗練された大人の女性。シンプルなアイテムの中に、女性らしさを忘れないシルエットやディテールを感じられるように意識して展開しています。もう1人は飾り気のない少年のような女性。カジュアルな古着をメインに自然体で気張らないメンズライクなアイテムを展開しています。例えば、キレイめなパンツにカジュアルなスウェットを合わせた融合感や、合わせ方次第で印象が変わる、そんな着こなしの楽しさをご提案しています。私が9年間のアパレル業界で培ったセンスやコミュニケーションスキルを総動員して、ひとりひとりのお客様のニーズに合ったパーソナルなご提案ができることが強みだと思っています。

金田さん商品写真

2人の女性をイメージしたアイテムで、お客様が求めるシーンに合わせて提案を行っている。

これまで会社勤めでは、作る人と売る人が分業体制になっていて、企画段階のコンセプトが販売の時点でずれてしまうのがストレスでした。買い付けから販売まで一貫して行える自店だと、商品に込めた思いをそのまま伝えることができ、お客様もそうしたストーリーを求めていると実感します。お客様との関係性が深まると、買い付けの際に「これが似合いそう」「こういうのを欲しがってた」と顔が思い浮かぶようになり、その瞬間がすごく幸せです。「自分のために買ってきてくれた!」と喜んでくださるお客様のフィードバックも大きなやりがいになっています。これからも洋服を通して、人と人との思いがつながる場を提供していきたい。将来的にはインテリア雑貨や子ども服など、ライフスタイルに関わるアイテムも扱えるようになるといいですね。

message/ 女性先輩起業家からのメッセージ

まず思いを強く持ち、口に出すことが大事だと思います。私は就職した当初から、「自分のお店を持ちたいので、こういう経験がしたい」と公言して、それを実現してきました。お手本になったのは、成功している起業家やアスリートの言葉、本など。中でもサッカー選手の本田圭佑さんが提唱していた「夢ノート」がとても役立ちました。大きな目標を立て、それに近づくために必要な要素を導き出して分析し、具体的な小さな目標を設定。すぐやれるものからどんどん行動に移していくというメソッドです。私の場合、「販売」「商品企画」「買い付け」のスキル獲得を細分化することで、やるべきことが明確になり、1つずつ順序だてて身に付けていくことができたんだと思います。

自分が起業するにあたっては、それほど不安は感じませんでした。というのも、幼い頃から身近に飲食関係の自営業の方が沢山いて、その方たちはとても自由に見えたのです。経営者になれば働き方も自分で選べるのか、と幼いながらに感じていました。実際に起業してみると、「全てが自己管理」という大変さはあります。会社員の場合、会社の意向や上層部の意見を元に目標を設定しますが、自営では自分次第。目標が低ければそこまでだし、高すぎると自分を追い詰め過ぎて疲弊してしまうことも。でも、自分の責任で挑戦することで視界が広がり、客観的な視点も鍛えられるので、人間的に大いに成長できると感じています。

行き詰った時には、周囲の先輩起業家の方々に会いに行きます。みなさん常に理想を持ち、そのために何をすればいいかを考えて行動している。その姿に刺激を受けて頑張ろうという気持ちになれます。また、目標を実現する方法がわからないときには、ISICOなど支援機関のアドバイスを受けることも。自分のパワーが落ちたり、スキル不足なところがあったら、周りの助けを借りてみてもいいのではと思います。

profile/ プロフィール

ME:YOU:金田 美裕さん

大阪府出身。高校卒業後、大手アパレル企業に入社し、大阪・東京にて販売だけでなく商品企画にも従事。その後、かねてから興味のあった海外での古着の買い付けも担当し、経験を重ねる。2018年に旅行で訪れた金沢の街の魅力に惹かれ、移住・起業を決意。20202月にブティック「ME:YOU」をオープンし現在に至る。

https://www.instagram.com/meyou_boutique/
https://btqmeyou.theshop.jp/

※2020年度取材

この記事をシェアする

follow us